今秋、東京・新橋-横浜間に国内初の鉄道が開業して150周年を迎える。「近代郵便の父」と呼ばれ、郵便制度の基礎を築いた上越市出身の前島密(ひそか)は鉄道開業にも深く関わっていた

▼明治政府でさまざまな改革を担当する改正局に勤務した前島は、上司の大隈重信から鉄道建設の費用や収支の試算などを命じられた。国内で前例のない大事業に自叙伝の中で「事業の一端も知らないのに試算を提出するのは、妄慢大胆の行為なり」と自嘲気味に振り返っている

▼苦心の末に試算をまとめ上げた。世に言う「鉄道臆測」である。大隈はこれを基に鉄道建設を推進した。本紙に小説「ゆうびんの父」を連載する作家の門井慶喜さんは「前島の鉄道への貢献はもっと評価されていい」と語る

▼全国に鉄道網が広がった現代では、赤字ローカル線の存続が課題となっている。JR各社は東海を除いて利用が低迷している路線の収支を公表した。こうした路線の将来像を検討するため、国はJRや地元自治体による協議会の設置を主導する方針だ

▼前島が郵便制度を構築する際、最も意識したのは全国ネットワークの重要性だった。「不便な寒村へき地まで配達して初めて郵便の精神が徹底される」と主張した

▼前島ならどのような現代版「鉄道臆測」を提案するだろうか。郵便事業と鉄道経営はもちろん異なる。ただネットワークとして機能してこそ力が発揮できるのは同じだ。収支だけを見て地方を切り捨てるような策を取らないことは確かだろう。

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