トーマス・エジソンは電気の力で生活を一変させた発明王だ。電気自動車の時代の到来を確信していた。しかし車載電池は消耗が激しく、充電に一晩かかることが壁になっていた

▼エジソンの会社で主任技師をしていたのがヘンリー・フォード。後に自動車王と呼ばれる彼は独自にガソリンエンジンを研究していた。1896年夏、この両雄の会話が自動車の歴史を変える。改良エンジンの説明に発明王が耳をそばだてた

▼すると机をたたいてこう言われたと、フォードは回顧している。「やったじゃないか、がんばって続けなさい」。電気第一の偉人に、ガソリン車の可能性を認めさせた瞬間だ。フォードは1908年、T型フォードの大量生産に成功、大衆化が一気に進んだ

▼そこからもう一度世紀をまたぎ今度はガソリンから電気へのシフトが起きている。地球温暖化対策である。米カリフォルニア州は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する方針だ

▼欧州連合(EU)、中国も歩調を合わせつつある。この先10年ほどでエジソンの夢が実現しそうだ。ガソリン車を含めた生産台数世界一のトヨタ自動車も、8年間で車載電池の生産能力を40倍以上に増やすという

▼いま電気自動車業界のトップを走るのは米テスラ社だ。誘導モーターや無線給電など、ある人物のアイデアを生かして飛躍を遂げた。その人物の名はニコラ・テスラ。フォードと同じくエジソンの下にいた天才技師だ。テスラ社の社名の由来と聞けば納得である。

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