秋の日はつるべ落としだ。きのうの日の入りは17時46分。1カ月前より50分ほど早まった。今の時季は毎日1~2分ずつ早くなる。6月の夏至の頃はほとんど変わらない日が続くから、たそがれ時が早くなると感じるのも当然だ
▼手元の辞書によると「たそがれ」は「誰(た)そ彼(かれ)」が語源だという。今の言葉なら「あれは誰」という感じか。薄暗くなって、人を見分けるのが難しくなる夕暮れ時を意味するようになったようだ
▼万葉集には、こんな和歌が収められている。〈誰そ彼と我(われ)をな問ひそ九月(ながつき)の露(つゆ)に濡(ぬ)れつつ君待つ我を〉。「あれは誰かと、私のことを尋ねないでください。九月の露に濡れながら、あなたを待つ私なのに」(岩波文庫「万葉集」)という切ない心情を詠んだ
▼闇の世界が迫り人や物が見分けにくくなる夕暮れ時を、人は古くから怪異と出合いやすい時間帯と考えた。「逢魔(おうま)が時(とき)」である。あながち迷信の類いとはいえない。現代では交通事故が多発する時間帯として知られている
▼現代の逢魔が時を示す新たなデータが明らかになった。警察庁が2017年から5年間に全国で発生した交通事故を分析したところ、日没後1時間以内に道路を横断中の歩行者が死亡した事故は7~9月に比べて10~12月は2・1倍に増えていた
▼自転車に乗った人が車と衝突した死亡・重傷事故も1・8倍だった。ドライバーの視覚を鈍らせる、魔の時間帯であるのは間違いない。気を引き締め、早めのヘッドライト点灯で魔よけとしたい。