劇作家の平田オリザさんは16歳の頃、自転車での世界一周に旅立った。テントや炊事道具、衣類などを自転車に据え付けたバッグに積み込み、北米大陸を横断。欧州に渡り、エジプトやアジアを巡った
▼「僕自身は自転車が好きだが、さほど熱心なサイクリストとは言えない」。旅を振り返った著書に、こう記している。トレーニングはそれほどしないし、整備も気が向いた時だけだったという。自転車はあくまで移動の手段という位置付けだったようだ
▼それでも、旅行記の記述は濃密だ。車や鉄道よりも速度がゆっくりな自転車での移動は、土地の空気をじっくりと味わえるのかもしれない。平田さんの著書にも、交差点で停車した際などに地元の人と知り合い、もてなされたエピソードがよく出てくる
▼このところ本紙で自転車に関する話題を目にする機会が多かった。新潟市や妙高市は電動アシスト付き自転車の貸し出しを始めた。それぞれ、まち中心部や観光地で乗ってもらい、地域の魅力を知ってもらったり脱炭素につなげたりする
▼県は自転車を活用した観光を推進しようと「サイクリストに優しい宿」の認定制度を始めた。認定施設では車両を客室などに持ち込める。工具の貸し出しもある。また、事故対策として自転車保険への加入が来月から県内で義務化される
▼平田さんは自転車の魅力を「だれもが風を切って走れるあの爽快感にある」と書いた。大人も子どももペダルをこぎ出してみては。きっと秋の風が感じられる。