「雪が解けると何になる?」。通常は「水」だが、雪国の人なら「春になる」と答えたくなる。しかし、見附市出身の詩人、矢沢宰の見方は少し違う。「雪の下には春が潜む」と書き「この雪はぼくの涙では溶けない雪だなあ…」(「幻想」)と結ぶ
▼普通なら雪で苦労するから巡り来る春に感動する。でも重い腎結核を抱えた矢沢には、冬を無事に越し、春が迎えられるのか約束されなかった。痛みや絶望の涙をどんなに流しても心の雪は消えてくれない。来年の春がどれほど待ち遠しかったのかが伝わる
▼青春のほとんどを結核病院で過ごした。絶対安静が続き、手鏡で外を眺めた。青空や雲の動き、鳥やカエルの鳴き声までが生きる励みだった。1966年、500余りの詩を残し、21歳で旅立つ
▼この病気は50年まで死因のトップで「国民病」ともいわれた。国は先日、昨年の結核患者が10万人当たり初めて10人を切ったとし、世界保健機関(WHO)が定める「低まん延国」になったと発表した。だが国内ではいまも連日35人の患者が発生し、5人が亡くなる
▼WHOは新型ウイルス感染症について収束の兆しが出てきたというが、日本ではまだ気が抜けない。オミクロン株対応のワクチン接種が始まった一方、季節性インフルエンザの同時流行が心配されている
▼せきが2週間続いたら、肺結核も疑えという。きょうから30日まで結核予防週間である。安心して春を迎えるため、まだまだ多くの感染症に気をつけなければならない。