以前訪れた時は「熱い湯」の表示通り、入れた足を思わず引っ込めるほどだった。その覚えがあったので、つま先を恐る恐る湯船に入れた。ここは新潟市の、とある銭湯

▼ところがこの日の「熱い湯」は、するりと入れる湯加減だった。拍子抜けしながらも、肩まで漬かり一息つく。先客が水を足し湯温を下げてくれたのだろうか

▼しばらくして別の銭湯を訪ねた。こちらの「熱い湯」も文字通り熱いことで知られている。警戒しながら足を入れたが、またもそこまで熱くない。熱い湯を耐えて味わう爽快感はお預けにして、長湯を楽しむにはちょうどいい

▼「節湯にご協力ください」。風呂上がり、そう書いた脱衣所の張り紙に目が留まった。銭湯に通い始めて30年余り、水不足で「節水」を求める張り紙は幾度も見てきたが「節湯」の文字は初めてだ。「燃料費高騰」とも書いてある。いずれの店でも「熱い湯」が控え目だったのは、そんな事情があるかもしれない

▼ロシアのウクライナ侵攻の影響で液化天然ガス(LNG)の調達が危ぶまれ、燃料高騰の荒波は街の銭湯にも押し寄せている。かつては木材を燃料にすることもあったが、現在はガスや重油がほとんどだ。公共的な色合いも濃い銭湯の先行きが気に掛かる

▼政府は、各家庭にも「節ガス」を呼び掛けている。それならば、時には家族で銭湯を訪ねてみてはどうだろう。大きな湯船に漬かっていると体も心も温まる。家庭の節ガスが銭湯のにぎわいにつながれば、一挙両得だ。

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