井戸は掘り下げる深さにより「浅井戸」と「深井戸」に分けられるという。大まかに言うと、地表近くから取水するのが浅井戸で、地下深くの岩盤など水を通さない層を越えて掘り進めたのが深井戸である

▼「水を飲む時には井戸を掘った人のことを忘れない」。中国のことわざだ。日本と中国の国交正常化を成し遂げた田中角栄元首相は、かの国でも「友好の井戸」を掘った人として知られる。先人は辛苦の末に井戸を掘り抜いた。ただ、その深度はまだ十分とは言えないようだ

▼国交正常化から50年がたち、現在の日中が掘り下げようとする井戸には相互不信の岩盤が立ちはだかっている。本社加盟の日本世論調査会が今月まとめた調査では今後の日中関係が「悪くなる」との回答が「どちらかといえば」を含め計89%に上った

▼20年前の調査では中国に「大いに親しみを感じる」「ある程度感じる」が計54%あったが、今回は計13%に激減した。日本から見れば、中国が沖縄県・尖閣諸島周辺で圧力を強めるなど覇権主義的な傾向を強めていると映る

▼それでも両国は隣り合って存在しており、それはこれからも変わらない。ともに平和な空の下で繁栄を享受するためには互いの理解が不可欠だ

▼浅井戸は家庭用の飲用水を得るため広く普及している。だが一般的には水が枯れやすく、水質は周辺環境に左右されやすい。深井戸は掘る手間がかかるが、安定した取水が期待できるという。日中の井戸も相互不信の岩盤を越えねばならない。

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