かつての歌舞伎界ではお茶くみも大部屋役者の仕事だった。その当番を「茶番」といい、そうした役者が余興に演じた寸劇を「茶番狂言」と呼んだ
▼これが素人衆に広がり、ばかばかしい内容もあったことから、底の見え透いた、下手なたくらみや振る舞いを茶番と呼ぶようになった。手元の辞書には、こんな語源の説明が書いてある
▼見る者をしらけさせる三文芝居という点では、まさに茶番と呼ぶにふさわしい。ウクライナ東部・南部の計4州をロシアに組み入れるかどうかについて、現地の親ロシア派が強行した「住民投票」のことだ。民意を反映していない実態は国際社会をがくぜんとさせた
▼「選挙委員」と称する人物と武装した兵士が戸別訪問し、投票を強要した。これでは自由意志を示せるはずがない。圧倒的多数がロシアとなることに賛成したと親ロ派が主張しても、結論ありきの出来レースといえる
▼しかし、その後の展開は深刻だ。ロシアは4州を併合。これらの地域を自国だと主張する。併合地域への攻撃はロシア本土への攻撃とみなすとして、核の脅しをなおいっそう先鋭化させることも考えられる。茶番だと鼻で笑ってはいられない
▼併合地域で徴兵したウクライナ系住民を前線に送り込むこともあり得る。愚かしさという意味では茶番劇といえようが、あまりにむごい悲劇である。一方で、徴兵を逃れようとするロシア市民の国外脱出も相次いでいる。侵攻から7カ月余り。この戦争は新たな段階に入ったようだ。