今どき、はやらない言葉だろうか。「反骨」である。権力や時勢に容易には服従しない気骨や気概のことだ。反骨の心やハングリー精神は人間を成長させる原動力にもなる。ほめて育てる時代にあっては、これもはやらないだろうが

▼プロレスラー、アントニオ猪木さんが世を去った。三条市出身のジャイアント馬場さんと昭和マット界の黄金期を築いた。「燃える闘魂」の原動力となったのも反骨心ではなかったか

▼レスラーとして王道を歩んだ馬場さんとは、タッグを組んだこともあった。たもとを分かち、ナンバーワンを目指したのは反骨の心ゆえだろう。馬場さんへのライバル心をむき出しにするような熱いファイトは、社会や組織の中でうっ屈を抱えた人々から熱狂的に支持された

▼プロレスに対する社会の冷たい目にも対抗した。ボクシングの世界王者だったムハマド・アリらと「異種格闘技戦」に臨み、レスラーこそが最強だと世間に訴え続けた。アリとの試合は互いになかなか技が繰り出せず、当初は「世紀の凡戦」と酷評されたが、今では「究極の真剣勝負」と評価される

▼病に倒れた後は、闘病の様子の取材にも応じた。衰えた体をカメラにさらしながら、病気との闘いにも一歩も引かない姿勢を見せた。最晩年まで自らの心と体にムチ打って、強さとは何かを社会に問い続けていた

▼宿命のライバルだった馬場さんとは、心の奥底では気を許し合っていたという。王道と反骨。両雄のタッグや対戦をもう一度見たかった。

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