あの挿絵がなかったらこれほどの人気作になったかどうか。絵本「ぐりとぐら」に登場する大きなカステラだ。卵の黄色が鮮やかで、焼けた部分がほんのり茶色がかっていた。あのカステラのおいしそうなことと言ったら
▼子どもだけでなく、多くの人の目をくぎ付けにしたはずだ。絵本を読み終わった後、カステラが食べたいとねだる子どももいたに違いない。ことし4~5月に新潟市美術館で開かれた「絵本原画の世界2022」でも作品が展示されていたから、ご覧になった方も多いだろう
▼森に出かけた野ネズミのぐりとぐらは、すこぶる大きな卵を見つける。持ち帰ろうにも、とても無理なので、その場でカステラを作ることにした。自分たちの背丈以上もあるフライパンを用意し、たき火を起こして料理を始める
▼心躍るストーリーだが、数々の挿絵がわくわく感を加速させる。大き過ぎて手で持てず、野ネズミはフライパンのふたを転がして運ぶ。そのいたずらっぽい表情に引きつけられる。げんこつで卵をたたいても割れずに痛がる姿も愛らしい
▼挿絵を描いた山脇百合子さんの訃報が届いた。姉で文章を担当した中川李枝子さんとのコンビで、数多くの作品を世に送り出した。仲良しのぐりとぐらは、姉妹を投影したキャラクターだったのだろうか
▼わが家の書棚から「ぐりとぐら」の古い絵本を引っ張り出した。紙は少し色あせていたが、カステラの黄色は鮮やかなまま。初めて目にした時の驚きと喜びは一向に古びない。