客と店員がこんな会話をしたとする。「おにぎりありますか」「売り切れです」。店員の言葉遣いは誤りではないが、そっけなく冷たい感じがする
▼「申し訳ありませんが、売り切れです」と言えば、客の心情に沿った温かみが感じられるようになる。「申し訳ありませんが」のように、本題に添えて柔らかく伝える役割を果たす言い回しを「クッション言葉」と呼ぶそうだ
▼ゴツゴツぶつかり合って具合の悪い時、衝撃を和らげるのがクッションだ。私たちが暮らす上で重要な役割を果たしている。少々硬い響きになるが、対応する日本語を探すと「緩衝」あたりになろうか。緩衝帯や緩衝材というふうに使われる
▼近年注目されるのが、人間と野生動物の生活圏の境界部分に緩衝帯を設ける取り組みである。動物に襲われたり、農作物を荒らされたりするのを防ぐ目的だ。耕作放棄地のやぶを刈るなどして見通しのいい場所を作り、動物が人間の生活圏に入り込まないようにする。長岡市は本年度、住民の取り組みを支援する助成制度を設けた
▼人間同士の紛争を防ぐ緩衝帯もある。ロシアはウクライナを西側諸国との緩衝帯とみなしていたようだが、一方的な侵攻によってそうした機能は失われた。クッション言葉を使って交渉する動きも見えない。停戦が遠いのが悲しい
▼ことしのノーベル平和賞がロシアとウクライナの人権団体などに贈られることになった。人権の尊重こそが人と人が衝突するのを防ぐ緩衝材になるのかもしれない。