「立て直す」。サポーター席に歩み寄った堀米悠斗主将が叫んだこの言葉で、アルビレックス新潟の今季のJ1昇格物語が動き始めた。氷雨降る3月、敵地の秋田戦で手痛い敗北を喫した直後のことだった

▼この時点で開幕4戦勝ちなし。選手やサポーターは身も心も冷え切っていた。そんな中での主将の言葉は皆を奮い立たせ、次節からハイペースで白星を重ねた。昇格物語はきのう、ついに完結した

▼「おとぎ話」。2003年にJ1初昇格を決めた際、当時の反町康治監督は新潟のサクセスストーリーをこう呼んだ。「サッカー不毛の地」とまで言われた本県にプロのサッカークラブができ、最高峰のリーグに駆け上がった歩みは、まさにおとぎ話だった

▼巨大なスタジアムの完成やW杯開催といった追い風も吹いた。しかし風はいつかやむ。泥くさく守り一瞬のすきを突くスタイルで長くJ1にとどまったが、限界があった。降格したJ2でも勝てない時期が長かった。おとぎ話の先にあったのは厳しい現実だった

▼風がなければ自分の力でこぐしかない。自ら物語を紡ぐしかなかった。試合の主導権を握り、相手の守備を崩す。もがいた末に、チームのスタイルは生まれ変わった。おとぎ話は空白のようなページを経て、新たな物語へと切り替わった

▼1本のパス、1本のシュートで、ピッチに文字を刻むように紡いだ物語と共に、再びJ1へ。いっそうレベルが上がったひのき舞台が待っている。物語は来季、新たな章の幕が開く。

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