新しい任地に赴けば、その土地に根差し、地道な活動を続けた人の足跡を知る。ただ、すでに他界していて会えない時は残念に思う。糸魚川市で古老から昔話を聞き取り、紙芝居にして次世代に語った中村栄美子さんもそんな1人だ
▼かつての電電公社に勤めていた際、民話が聞けるテレフォンサービスを担当した。「口から口へと語り継がれたたくさんの伝説、昔話がある」と山あいの集落に入り込んで採話を続けた。その中にはアニメ「まんが日本昔ばなし」で全国放映された作品もある。退職後も読み聞かせ活動に力を注いだ
▼白馬や焼山の山並み、川の音や峠の地蔵といった、ふるさとの風物を子どもたちに伝えたいと願った。紙芝居にする際は中村さんの文章を基に、地元のイラストレーターや糸魚川高美術部が心温まる絵を描いた。昨年76歳で亡くなり、約80点の作品が遺族から市に寄贈された
▼自ら創作した作品に「お道(みち)よう」がある。題名は「無事何事もなくお帰りください」という意味のあいさつ言葉。ふるさとの方言の大切さを訴える内容だ。相手を思いやる、この言葉にほれ込み、廃れることを案じていたという
▼作品のデジタル化を求める声も上がっている。有志の力を借りるなどして実現できないか。足元の宝を掘り起こした精神は県民全体で受け継ぎたい
▼本紙が読者のコラムを募集する「わたしの日報抄」でも優秀作に輝いたことがある。活字がお好きだったのだろう。この朝刊もどこかで読んでいるだろうか。