秋のそよ風が猫じゃらしを揺らす。河口にハゼ釣りが増える時季だ。新潟市のそんな川と海の出合いの土手で、年配夫婦が椅子を並べ、のんびりしていた

▼漁港で作業船が進む。淡い青空の下、沖合に佐渡が横たわる。「暑くも寒くもない。いい天気らね」。お二人は車で通院する途中という。昼時、コンビニで弁当を買い、水辺を眺めて過ごす

▼「チェアリング」。気に入った屋外スペースに椅子を持ち出し、軽く一杯。数年前、酒の雑誌で紹介されたのが最初とか。お酒なしでも公園や水辺、野山で折りたたみの椅子に座り、談笑したり、ボーッとしたり。手軽なアウトドア活動として人気という

▼コーヒーや本、イヤホンからの音楽などお供はなんでもあり。流行の背景にはウイルス禍があるのかもしれない。公共の場や街角から、ベンチがどんどん姿を消している気がする。「密」防止の名目で、1席ごとに腰掛け禁止の張り紙がある施設も多い

▼屋内外を問わず、用がなくても、座ってひと息つける。そんな公共のスペースの多少は、社会の潤いの尺度だろう。学校や職場では、毎日が椅子取りゲームのように、ふるいにかけられる。チェアリングは、せわしない競争社会に背を向ける姿かもしれない

▼全国旅行支援も始まった。リュックサックに携帯椅子を入れ、旅先でぼんやりとする手もある。近くの水辺や公園、いつもの散歩先で、お気に入りの場所を見つけるのも楽しい。マナーを守り、秋の野外をしばし居間にしませんか。

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