この時季の夜長は心地いい。買い置いていた本を寝床で読む。物語に引き込まれ、時を忘れる。われに返ると、もう午前2時、3時…。「あしたは早い」。焦るほどに眠れない。新潟弁で言う「寝そける」である
▼「羊が1匹、羊が2匹…」。この呪文が効かないのは、大人になったからでなく、英語圏のおまじないだからという。「スリープ」(睡眠)と「シープ」(羊)は発音が似ている。優しい腹式呼吸となって眠気を誘う。日本語の「ひつじ」では口元が忙しく、逆に目がさえそうだ
▼秋は「羊」と出合える不思議な季節だ。曇り空が多い雪国でも、天高く青空に恵まれる機会が増える。爽やかな朝や昼下がり、羊が群れたような「ひつじ雲」がゆっくりと流れている。高積雲だ
▼同じ秋の空に似合う代表格は、ひつじ雲より高い空に行儀よく浮かぶ巻積雲だろう。「うろこ」「いわし」「さば」と魚に縁のある名前で呼ばれる。指を1本立てて、雲一つが隠れたら「うろこ」、はみ出たら「ひつじ」と見分ける方法もある
▼しばし見とれて心は安らぐ。ただ、どちらも天候が崩れる予兆だとか。空から地上へと目を移す。越後平野を見渡せば、今度は稲刈りを終えた田んぼにも青い「ひつじ」が群れている。切り株から再び芽を出した小稲をそう呼ぶ
▼天と地の両方で羊が群れる。街中ではウールの上着姿も目立ち始めた。長期予報は3年連続のラニーニャ現象で寒い冬になりそうだ。ひつじ田の穂を目指す白鳥の飛来も本番である。