静岡県で富士山周辺を巡る観光バスが横転し死傷者が出た事故の際、運転手が「ブレーキが利かない」と話していたという。原因としてはブレーキの誤操作のほか、長い下り坂でフットブレーキを使い過ぎたことなどが考えられそうだ

▼かつて運転教習所で習った注意事項を思い出した。フットブレーキを使い続けると部品が高熱になって摩擦係数が下がったり、ブレーキを作動させる液体に気泡が生じて力が伝わらなくなったりして、制動力が低下する

▼この季節、紅葉狩りなどで山道を走行する機会が増えそうだ。スピードを抑えるのはもちろん、エンジンブレーキを活用するなどして、フットブレーキが利かないような事態を防ぐ心構えが必要なのだろう

▼車の運転中にブレーキが利かない場面を想像すると恐ろしい。車だけでなく、国のかじ取りにも当てはめたくなる。ウクライナに侵攻し、泥沼のような戦闘を続けているロシアもブレーキが利かなくなっているように見える

▼プーチン大統領は当初、ウクライナの占領は考えていないと明言した。しかしウクライナに反転攻勢を許すと東・南部4州の併合に打って出た。侵攻の構図は最初に説明していた「限定的な特別軍事作戦」から大規模な戦争へと様相が変わってきた

▼一方、わが国はどうだろう。現政権の国葬への対応や首相長男の秘書官起用などを見るにつけ、ブレーキが有効に機能しているかは、どうも心もとない。何事においても、きちんとしたブレーキは欠かせない。

朗読日報抄とは?