「高校2年生になり、なんとクラスや選択授業で隣の人に自分から話しかけることができたのです」。困難な状況でも懸命に生きる高校生の一言一言が胸に刺さった

▼上越市で今月開かれた県高校定時制通信制生徒の生活体験発表大会。この生徒は家族とは会話できるが学校ではうまくしゃべれず、いじめにも遭った。自死について考えているうちに、自殺願望が生まれた

▼苦境を救ってくれたのは、あるクラスメートの声かけだった。体育の授業を一緒に見学した。初めはぎこちなかったが徐々に話せるようになり笑顔で会話できるまでになった。「今は楽しいし、生きていて良かったと心から思っています」と結んだ

▼発表した生徒の多くは他人との違いから、からかわれたり、いじめられたりした経験を語った。作家の雨宮処凛さんは本紙連載「『生きづらさ』を生きる」で、学校生活について「『周りの視線』に耐え続けるということがしんどくて仕方なかった」と振り返る

▼求める理想像とのギャップを感じたとき、人間は悩みを深める。だが英国の哲学者ラッセルは「幸福論」で〈だれも完全であることを期待すべきではないし、完全ではないからといって不当に悩むべきではない〉と指摘する

▼ある人にとっての当たり前が、別の人にはとてもしんどいと思うことがある。それでも友人や家族など周囲の温かい支えがあれば、乗り越えていける。高校生が演壇から発した言葉の一つ一つは、困難に立ち向かう勇気を与えてくれる。

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