先日の紙面に「中越地震機に歌で支援」の見出しがあった。シンガー・ソングライターのさだまさしさんの写真が添えてある。長年、被災者や医療・福祉の現場を支援してきた歩みを紹介した記事だった

▼活動の原点は2004年、中越地震で被災した山古志村(現長岡市)の避難所を訪れたことだった。「せっかく来たんだから歌って」と言われ「いいのかなと思ったけど歌ったら、バラバラにいた人たちが集まって喜んでくれた」

▼さださんと山古志との出会いは、その数年前にさかのぼる。雪に覆われた山里の景色や、雪解け水に磨かれた錦鯉の美しさに魅了された。その思いをモチーフにして作った曲が「春待峠」である

▼〈白い 白い雪の下を 流れる水に 色とりどりの鯉 揺らいだ〉と歌い出す。その先には大切な人との別れがある。それでも雪解けの頃の再会を願い、春を待ちわびる。地震の前に作られた曲でありながら、復興を祈る被災者の心情を投影したような歌だった

▼地震後の人口は減ったが、地域外との交流に活路を見いだし、新たな出会いを復興につなげた。交流人口を増やして活力を生む手法は、人口減社会の中で未来を開くモデルケースでもあった。最近はネット空間で「デジタル村民」を迎え、実際の交流の入り口にする取り組みも進んでいる

▼地震の発生からあすで18年になる。これからも出会いを生かしていきたい。「春待峠」の歌詞はこんなフレーズを繰り返す。〈また会えるかな きっと会えるね〉

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