「国家百年の計は教育にあり」。目先の政治動向などでころころ変わる教育では、まともな社会や国は築けない。長期視点で人を育てる大切さを説いた言葉だ

▼この考えに沿ってのことだろう。文部科学省は2001年生まれの人を対象に、毎年多岐にわたる質問をして変化をみる「21世紀出生児縦断調査」を続けている。幼い頃は手洗い習慣や習いごと、思春期になると悩みやテレビゲームの影響などを尋ねた

▼節目の20回目の調査結果が先日公表された。気になる項目があった。「明るく、楽しい気分ですごした」「日常生活の中に、興味あることがたくさんあった」。こうした項目で、肯定的な回答が前々回、前回と比べ減少傾向にあった

▼「自分の将来に希望をもっている」も減少した。なぜか。ウイルス禍が生活に影を落としていないか。ほかの世代に比べ、快活な青春時代を犠牲にしていないか。将来の希望まで奪われたとすれば切ない

▼太宰治は1940年、旧制新潟高校で講演した。その様子を小説「みみずく通信」に描写している。「何をしても駄目です」。こう嘆く生徒に太宰は諭す。「やってみて転倒して傷ついて、それからでなければ言えない言葉だ。何もしないさきから、僕は駄目だときめてしまうのは、それあ怠惰だ」

▼今の人には、厳しく聞こえるかもしれない。ただ、若者の可能性を強調した励ましでもあったはず。人生百年時代、自らの百年の計は始まったばかりだ。「21世紀出生児」にエールを贈りたい。

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