新潟のうまい酒と肴(さかな)を求めてふら~り、ふらり。酒席で人生の多くを学んだ新潟日報社の森沢真理・特別論説編集委員が、酒や肴、酒にまつわる出会いをつづるコラムです。にゃんこの「おかみ」もご一緒に!
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しょうゆ、みそ、塩、豚骨。インスタントラーメンはどれが好きですか? 私はしょうゆ派だが、「サッポロ一番」(サンヨー食品)に関しては、塩に1票を投じたい。しょうゆはチャーシューをはじめ具だくさんにするが、塩ラーメンは卵に薬味くらいがいい。白身ふんわり、黄身とろりを熱々の麺に絡め、澄んだスープと流し込む。
この月見そばならぬ「サッポロ月見」には、ちょっとした思い出がある。30年ほど前のこと。その夜の私はへこんでいた。取材先がつかまらず、やっと取れたコメントもいま一つ。原稿はボロボロで、デスクがため息をついた。私は夫なし子なし。夜遅くに愚痴をこぼせる相手はいない。
そういえば、昼から何も食べていなかった。帰路に遅くまで開いているスナック兼居酒屋があったのを思い出し、寄ることにした。こうした店に一人で行くのは初めてだ。柄ものの開衿(かいきん)シャツを着たマスターは、ちょっとくたびれた感じの色男だった。
もうすぐ閉店らしい。お客は次々帰り、カウンターにいた40代とおぼしき女性と私だけ。ビールの泡をなめ、ご飯ものメニューを眺めていたら、女性の言葉が耳に飛び込んできた。

日が暮れると、赤ちょうちんに灯がともる。居酒屋の店内では今夜、どんな人間ドラマが繰り広げられるのだろう=長岡市東坂之上町
「ねえ…。マスターと私は、前世から縁があるんだよ」
聞くともなしに聞いていると、働くシングルマザーらしい。マスターに気があるようで、手を握っては「手の形が私とそっくり」とはしゃぐ。困った。私は明らかに邪魔者だ。腰を浮かせた途端、マスターから声がかかった。
「特別なメニューをごちそうしますから、食べていきませんか」
「特別」の響きに引かれて、座り直す。われながら意地汚い。マスターの手元をのぞくと「サッポロ」の袋が見えた。「インスタントかあ」と一瞬、がっかりしたが、出された丼に口をつけたら、止まらなくなった。具はふわりと火を通した卵だけ。スープの優しい味が胃に染みていく。
気づくと、マスターを含めて、3人で麺をすすっていた。先ほどまでのちょっと色っぽい空気は、見事に消えている。熱いラーメン一杯で、人恋しさがなだめられることもあるのだな、と知った。
マスターが、女性に声をかける。「明日も早いんだろ」「うん。子どもの弁当、作らないと。マスターも商売、頑張って」
外に出ると、月が天高く上っていた。食べること、働くこと。日常の小さなことを積み重ねるのが大事なのだ。お風呂に入って、明日に備えよう。

「サッポロ一番塩らーめん」で作った月見ラーメン。黄身が壊れたら「雲隠れラーメン」に名前を変更
◆猫オヤジが推薦!猫場山(ニャエバサン)
「日本酒浪人」の酒はラーメンとの相性抜群
月見ラーメンには、どんな酒を合わせよう。ラーメンにマッチするカップ酒として、津南町の苗場酒造が販売しているのが「熟成辛口 猫場山(ニャエバサン)」だ。
通称ニャーメンカップ。ラベルには、ラーメン店主の猫オヤジが腕を組み、新潟弁で話すイラストが描かれている。
商品開発に当たったのは「日本酒浪人」を名乗る松本英資(えいじ)さん(60)=長岡市=。元々は、2014年に廃業した長岡市・美の川酒造の社長だった。在庫は苗場酒造が引き取り、松本さんが販売を手伝うことになった。

カップ酒「猫場山」。イラストの猫は、サバだし塩ラーメン専門店の大将という設定だ。名前はフランク・サバトラ
「周りにご迷惑をかけたし、業界から引退する予定でしたが、背を押してくれる方々がいたんです」
「猫場山」シリーズとして販売を始めたのは2020年だが、在庫の中に熟成させた古酒があった。淡麗辛口タイプと逆で、しっかりした味わい。さまざまな食材と組み合わせてみたところ、味の濃い料理を生かすことが分かった。
これをどう売っていくか-。思い出したのは、地元長岡のソウルフード、ラーメンだった。ショウガが香るしょうゆ味のラーメンは長岡名物だ。「合わせてみたら、ぴったり。塩やみそとも好相性でした」
新たな飲み方も考えた。ニャーメンカップを熱かんにする。3分の1飲んでもらい、その後ラーメンスープを注ぎ「スープ割り」を楽しむ。または、常温のカップ酒をトマトジュースで割る(割合は1対1)。県内の酒店やバーテンダーなどが、協力してくれた。

猫場山のニャーメンカップを手にする「日本酒浪人」こと松本英資さん=長岡市
松本さんは日中、高齢者関連の仕事をしながら、日本酒イベントなどで猫場山の魅力を伝えている。
「もう酒は造れないけれど、飲み方や楽しみ方の提案はできる。自分を育ててくれた業界に恩返しをしたいんです」
自分の蔵という城はなくなったけれど、日本酒を愛する「浪人」として、猫場山とともに第二の人生を歩いている。
◆[ほろよいレシピ]シンプルもよし、アレンジもよし 変幻自在な憎いヤツ・月見ラーメンとサラダ

月見ラーメンの材料
材料(1人前)袋麺半分、スープの素3分の2(ほかにもつまみを食べたいので)、卵1個、ネギ少々、ショウガ少々(チューブでいい)
(1)お湯を沸かす。その間にネギを刻み、卵を黄身と白身に分ける(黄身は月、白身は雲のイメージ)。丼にスープの素とショウガを入れておく。
(2)白身を泡立て器でほぐし、メレンゲ状にする。酢を加えたお湯でゆでる。弱火にして、白身を静かに寄せる。固まったらそのまま浮かべておく。
(3)別の鍋にお湯を沸かし、麺をゆでる。
(4)スープを湯で溶き、麺と白身を入れる。ネギを散らす。黄身をそっと乗せ、袋麺に付いている切りゴマをパラパラ。

マイタケ入りラーメンのサラダ。市販のゴマドレッシングを使ってもいい
【おまけ】残りの麺はサラダに。残ったスープの素を水で溶き、ぽん酢、ごま油と混ぜてドレッシングを作る(味は好みだが、やや濃い目に)。麺と切ったマイタケ、ピーマンをゆで、水で冷やす。ドレッシングであえる。プチトマトを飾り、からしを添える。
◆[酒のアテにこぼれ話]
「苗場」が「猫場」に!ニャンで? 猫業界参入の秘密とは?
苗場酒造は「苗場山」をメインブランドとし、宿泊施設とコラボしたフルーティーな日本酒「醸す森」で注目される酒蔵だ。なぜ「猫業界」に参入したのか。
きっかけは、取締役の福嶋香志枝(かしえ)さん(51)が、キジトラ猫を飼う愛猫家だったこと。
「地元のかかしコンテストに猫のかかしを出品したり、蔵まつりのチラシに招き猫のイラストを入れ『nyaebaさん(ニャエバサン)』と書いたりしていたんです」
「面白い」と感じて、新商品の企画を考えたのが松本さんだ。苗場酒造の字を見ていて「苗にけものへんを付ければ、猫という字になる」と気づいた。「猫場山でいけるんじゃないか」

デジタルコラムをチェックする猫おかみ。冬毛で尻尾もふわふわに
企画書が通るかどうかは不安だったという。「パロディーみたいなものですから。ところが、社長はあっさり通してくれた」
商品の第1号は、720ミリリットルの猫場山純米吟醸。2020年2月、猫が多い街として知られる新潟市中央区の沼垂テラス商店街で、お披露目会を開いた。コンセプトは「愛猫家が猫と戯れながら飲むお酒」。商品は好評で、手応えを感じた。
カップ酒はほかに、純米酒「ニャーカップ」がある。ラベルは温泉に入る猫のイラスト。イメージは、水戸黄門シリーズで入浴する由美かおるだそうだ。
◆[お買い物info]
◎苗場酒造 津南町下船渡戊555、電話025(765)2011
◎ニャーメンカップは308円、ニャーカップ330円
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