江戸時代のことわざの「風が吹けば桶(おけ)屋がもうかる」ほど省略された言い回しはちょっとない。略さずに話をたどると、こんな感じだ
▼風が吹くと砂が舞い上がり、目を傷める人が増える。視力が悪くなって三味線で身を立てる人が多くなり、三味線に張る革用に猫が捕まえられる。猫が減るとネズミが悠々と動き回り、桶など家財をかじるので桶屋が繁盛する-。「思わぬ結果が生じることのたとえ」と広辞苑は記す
▼現代版の「風が吹けば」だろうか。ロシアによるウクライナ侵攻などを受け、県内でも学校給食費の引き上げを検討する自治体もあると先日の本紙が報じていた
▼ウクライナ侵攻や円安は、乳牛が食べる配合飼料の高騰をもたらした。日本は飼料を輸入に頼るため、酪農家の経営は厳しい。そこで乳業メーカーと酪農家団体が交渉し、乳製品の原料となる「生乳」の値上げが決まった。結果、牛乳やヨーグルトなど乳製品の価格が上がり、給食に影響が出かねない、という状況のようだ
▼「風が-」のことわざが生まれた江戸時代に比べると、現代の経済は複雑になり、海外とも広く深くつながる。その分、遠くで吹いた風が暮らしにどう波及するのかを予測することはより難しくなった
▼どこでどんな風が吹いたのか。その影響で何が起こるのか。風と桶屋の間の動きは、以前に増して深刻な事態を引き起こすようになったのかもしれない。牛乳の記事は今春以降、県内で酪農を廃業する動きが相次いでいると伝えていた。