韓国の首都ソウルの雑踏で群衆が転倒し、多数が死傷したニュースに触れ、66年前に本県で起きた大惨事の記憶がよみがえった方も大勢おられるのではないか。弥彦神社の二年参り客が折り重なって倒れ、死者124人を出した「弥彦事件」である

▼悲劇が起きたのは、暦が1956年に変わった直後のことだった。神社の境内は参拝客でごった返していた。元旦を迎えたのを機に花火が打ち上げられ、福もちまきが始まった。新年の福を手にしようと人々が押し寄せた

▼人の波は息もできないほどの密集をつくりだした。新たな参拝客も続々と到着し、密集に輪をかけてもみ合いになった。逃げ場のない人混みの中で誰かが転び、転倒は連鎖となって広がった

▼当時の本紙は、命を落とした人々が連なるように横たわる写真を大きく掲載している。衣類が泥にまみれた人も多かった。現場では急きょ遺体を収めるひつぎが作られることになり、作業の音が響いた。白木のひつぎにうつ伏して涙を流す若い女性もいた

▼時代や場所は異なるが、ソウルの悲劇と弥彦の惨事との間には共通点が浮かび上がる。人々が心躍らせて出掛けた場所で、人の渦に歯止めが利かなくなった。ひとたび渦に巻き込まれれば、人の力であらがうことは極めて難しい

▼新型ウイルス禍から日常を取り戻す動きが進んでいる。大型イベントなど大勢が集まる機会も増えてきた。ソウルの悲劇は、異国で起きた人ごとではあるまい。こんな惨劇を繰り返してはならない。

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