ザラ紙にガリ版刷り、紙が配給制だったために手帳を作る材料の確保に四苦八苦したという。表紙には、子どもを見守るコウノトリが描かれていた

▼小児科医の中村安秀さんの著書「海をわたった母子手帳」で、1948年の手帳誕生の秘話を知った。母子手帳は42年発行の妊産婦手帳を前身とする。終戦後のモノ不足の中、助産師や保健師が普及に力を尽くす

▼正式には母子健康手帳という。妊娠から出産までの経過、子どもの身長・体重の推移、予防接種歴…。母と子の記録が一冊に収められ、健康状態や成長ぶりが容易に把握できる。日本発祥の手帳のメリットは世界に認識され、多くの国に広がっている

▼子育てに欠かせない手帳が今の時代に合っているのかどうか。リニューアルに向けて議論を重ねてきた厚生労働省の検討会が方針をまとめた。産後ケアや子の成育に関する項目を増やし、きめ細かなサポートにつなげる。来年度の見直しを目指す

▼こうした動きに先んじて、さまざまな工夫を凝らしている自治体が少なくない。父親の育児参加を踏まえて「親子」手帳と併記したものや、外国語版もある。県内でも、上越市などでは「母子」と「父子」の2冊を配っている

▼検討会の方針には、電子化の推進も盛り込まれた。紙からデジタルへ、利便性のさらなる向上に期待が膨らむ。現在の形式の手帳が産声を上げてから、来年で75年。近い将来、パソコンやスマートフォンの手帳が当たり前になっても大切な役割は変わらない。

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