法相の重責を軽視するような人物に、法務行政のかじ取りを任せることはできない。更迭は当たり前で、唯一の選択だ。

 しかし岸田文雄首相の反応は鈍く、またしても判断が遅れた印象がある。首相の危機管理は大丈夫なのか問わねばならない。

 岸田首相は11日、「法相は死刑のはんこを押す地味な役職」などと発言していた自民党岸田派の葉梨康弘法相を更迭した。

 葉梨氏は9日夜の会合で「はんこを押す」発言に加え、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題に「抱き付かれ、解決に取り組まねばならない」「法相になってもお金は集まらない」と述べた。

 10日に厳重注意を受け、発言を一部撤回したが、「金は集まらない」と言及した部分については拒否。11日になって撤回した。

 はんこ発言は、度々繰り返していたことも判明した。

 葉梨氏は辞表を提出し「死刑という文言を軽率に使い、国民に不快な思いをさせた」と語った。

 だがこの間の姿勢は形式的な撤回を重ねるようで、問題の重さを認識しているか疑わしかった。

 一連の発言には与党からも早い段階で「不愉快だ」など厳しい声が上がっていた。

 深刻さを踏まえ、首相がすぐに更迭するか注目されたが、10日はこれを否定。11日午前の参院本会議でも「職責の重さを自覚し、説明責任を徹底的に果たしてもらいたい」と述べて拒否した。

 岸田内閣では、旧統一教会との接点が相次ぎ発覚した山際大志郎前経済再生担当相が、10月下旬に事実上更迭されたばかりだ。この時も首相の判断が後手に回ったと批判された。

 度重なる失態は政権にとって打撃となる。首相には閣僚の更迭が相次ぐ「辞任ドミノ」を避けたい思いもあっただろうが、先送りするだけで解決にならない。

 国会で否定した直後に一転して更迭を決め、外遊の出発を翌日に延期する異例の対応になった。首相の判断の遅さが際立った。

 葉梨氏は首相が率いる岸田派出身の閣僚で、与野党から「辞めさせたくない感情が先に出ている」などと指摘された。それで判断が鈍ったのなら、身内に甘い。

 政治資金収支報告書などを巡って疑惑が追及され、野党から辞任を求められている寺田稔総務相も岸田派の出身だ。

 経済再生相を辞した山際氏は、4日後に党新型コロナウイルス等感染症対策本部長に起用された。

 この人事について首相は「経歴や経験を踏まえて総合的に判断した」と述べていた。

 責任を取って職を辞めた人物が、直後に党の要職に就く人事はあまりに国民をなめている。

 首相は自らの任命責任を深刻に受け止めねばならない。緊張感を持って政権運営に努めるべきだ。