罪を犯して収監された人に宗教や学問を教える職務がある。教誨(きょうかい)師と呼ばれる。ノンフィクション作家、堀川恵子さんの著書「教誨師」は、東京拘置所で半世紀にわたって死刑囚に寄り添った僧侶に取材した労作である
▼世に出すのは自分の死後に、との約束で僧侶が語った死刑の記憶は凄絶(せいぜつ)だ。法が定める刑罰とはいえ、人の命を奪う行為である。死刑囚はもとより、拘置所の担当者ら携わる人々の誰もが懊悩(おうのう)を重ねて執行に臨む
▼本の中で僧侶は言う。〈世間を騒がす死刑事件が起こると、マスコミは繰り返し報道する。もう「死刑」という言葉を聞かされても、すっかり耳が慣れてしまって今さら驚くこともない。しかし、実際の執行現場のことになると、人々はまるで自分には無関係とばかりに考えることを放棄してしまう〉
▼法相は死刑のはんこを押す地味な役職-。法相辞任に追い込まれた葉梨康弘氏の発言は、執行現場に無関心どころか、究極の刑罰の重みを全く理解していない。死刑に関わる全ての人をおとしめるものだ
▼「外務省と法務省は票とお金に縁がない」「法相になってもお金は集まらない」という発言もあった。どこかのポストは票やカネになるらしい。人権や命をつかさどる法よりも、そちらを重視する人物だったようだ
▼旧統一教会との接点が相次いで判明し、辞任させられた直後に所属政党の要職に就いた前閣僚がいる。政治とカネの問題が浮上した現職閣僚もいる。岸田内閣の「適材適所」とは何なのか。