♪君の嫌いな東京も秋はすてきな街…。オフコース時代の小田和正さんが歌ったように東京の秋は美しい。紅葉がきれいだ。昔植えられたイチョウなどの巨木が意外と多くある。特に街路樹の多い都心部は街全体が黄色に染まったようになる
▼東京の紅葉がきれいな理由には青空もあると思う。新潟の紅葉は曇り空を背景にすることが多い。これに対し東京は晴れの日が多く、並木の黄や赤と空の青とが鮮烈なコントラストをつくり出す。目にもまぶしい光景だ
▼とはいえ、やはり大自然の紅葉にはかなわない。魚沼市と福島県を結び、11年ぶりに全線で運転が再開した只見線がにぎわっている。目的は車窓から見る秘境の紅葉。川面に映る山の錦には息をのむ
▼県内各地の紅葉も山から平場に下りてきた。秋の東京でつい口ずさんでしまうのが小田さんの歌なら、新潟の山里では童謡「里の秋」になる。♪静かな静かな里の秋…。のどかな里に暮らす母子の秋の日常を歌う
▼その歌詞が元々、戦時中に戦意高揚のために作られたことはよく知られている。「父さんのご武運を今夜もひとりで祈ります」「僕だって必ずお国を護(まも)ります」とあった歌詞を戦後、父の帰国を祈る内容に書き直して広まった
▼二つの名曲に共通するのは、もの悲しさを感じさせる旋律だ。とかく秋はもの悲しい。戦火はやまず、新型ウイルスは収まらない。物価は上がる一方だ。悲しいことばかり。せめてきれいな紅葉を眺め、切ない気持ちをひとときでも忘れたい。