選挙を通して浮き彫りになったのは社会の根深い分断だった。それをどう克服していくのか。民主主義大国の針路が問われる。
米中間選挙で、野党共和党が4年ぶりに下院で多数派を奪還した。当初は共和党大勝の予想もあったが、辛うじて勝利し、議席増は小幅となる見通しだ。開票作業は2週目に入った。
既に上院はバイデン大統領の与党民主党が多数派維持を決めており、政権と議会の支配党が異なる「ねじれ」が生じる。
選挙戦では、上下両院奪還を狙う共和党が、記録的インフレを巡りバイデン民主党政権を徹底的に批判した。
これに対し民主党は、2年前の大統領選の不正を主張するトランプ前大統領の同調者が共和党から多数立候補しているとして、「民主主義の危機」を強調した。
中間選挙は現職大統領に対する信任投票の意味合いがあり、与党が議席を減らすことが多いが、今回は民主党が善戦した。
最高裁が今年6月に否定した人工妊娠中絶の権利を訴えたことも、多くの若者や女性らから支持されたようだ。
ただ、バイデン政権の運営には厳しい道のりが待っている。
中絶の権利法制化などの立法課題には、下院で過半数を握る共和党が立ちはだかるのは必至だ。
バイデン氏は共和党の下院奪還を受け「協力する準備はできている。政治闘争に明け暮れている場合ではない」との声明を出した。
独善的な政権運営でトランプ前大統領がもたらした国民の分断は、今なお修復からほど遠い。選挙戦でも、方向の異なる両党の議論は全くかみ合わなかった。
バイデン氏には国民の融和を図り、民主主義の危機を立て直す強い覚悟が改めて求められる。
一方、トランプ氏は共和党苦戦の責任論も出ている中で、次期大統領選の出馬を表明し、「再び偉大な米国にする」と演説した。
トランプ氏は昨年1月の議会襲撃事件を主導した疑いや、機密文書を私邸に持ち込んだ疑惑で捜査を受けている。
大統領候補に名乗りを上げることで起訴されにくくするもくろみがあるとすれば見過ごせない。
大統領時代は「米国第一」を掲げて各国との貿易摩擦を引き起こすなど、国際社会を混乱させた。
バイデン氏は先日、中国の習近平国家主席と対面で初の首脳会談を行った。台湾海峡の平和と安定を損なう中国の威圧的な行為に反対し、習氏との応酬となった。
力による現状変更に対して毅然(きぜん)とした態度を取るのは当然だ。ロシアによるウクライナ侵攻の早期終結に向け、大国としての指導力も問われている。
国際社会の安全保障が大きく揺らいでいる中で、平和の構築に手腕を発揮してもらいたい。
