時折、列島のどこそこで思いがけない時季に桜が開花したとの便りが届く。そうした季節外れの開花とは違い、桜には春と秋に花開く二季咲きの品種がある

▼あの桜はどうなったか。気になって五泉市の村松公園に車を走らせた。年に2度咲いていた十月桜である。植樹されていた場所に着くと、記憶にあった姿とどうも違う。公園事務所によると、十月桜が枯れてしまい、やむなくシダレザクラに植え替えたとのことだった

▼慰霊の思いが詰まった桜だった。戦時中、この地に戦場での通信技術を学ぶ学校があった。陸軍少年通信兵学校には全国から10代の若者が集まり、多くが南方で命を落とす。戦地へ送り出した教官の遺志を受けて2006年に植樹された。毎年10月の中下旬から少しずつ花が開き、12月まで咲く年もあった。そしてまた翌年春に開花する勤勉ぶりだった

▼品種は替わったが、脇の石柱には「少年通信兵慰霊の樹」の文字が刻まれている。植樹に尽力した一人、五泉市の元教員の天沢美和さんは92歳。「再び大きく育ち悲しい歴史を伝えてほしい」としみじみ語る。3千本の桜を有し、名所として知られるこの公園には、こんな木もある。春の開花が楽しみだ

▼ウクライナでは、若い兵士が命を落としている。戦闘の長期化で、侵攻したロシアの側も若者が動員された。戦況悪化で繰り上げ卒業して戦地に向かった通信兵の姿にも重なる

▼新たな慰霊の桜はまだ小ぶりだが、戦没した若者の分まで健やかに育ってほしい。

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