軒先にひもでつるしておいた渋柿が、ずいぶん小さくなった。いい具合に、干し柿ができあがったころか。一つ外してかじってみると、とろりとした果肉の甘さが口いっぱいに広がった

▼それにしても、生柿をかじったときに、口中にまとわりついた、あの強烈な渋みはどこへいったのか。ネットで調べると、乾燥させることで渋柿に含まれるタンニンの性質が変わり、甘みだけを感じるようになる、とあった。自然の力はすごい

▼生だと渋みに隠れているけれど、実は、渋柿の方が甘柿よりも甘みが強いのだという。だから甘柿を干しても、渋柿ほど甘くならない。渋柿は干すと糖度が50度前後になるというからびっくりだ

▼戦中戦後の甘い物が乏しい時代を生きてきた世代からは、干し柿や山栗の甘さは格別で、最高のおやつだったと懐かしむ声が聞こえてくる。甘さの記憶は、親やきょうだいと一緒に食べた当時のぬくもりとともに思い出されるものだろう

▼立冬を過ぎ、暦の上では冬だけれど、紅葉が残る野山ではキノコの恵みを楽しめる。とはいえ、見分けるのが難しいので、眺めるのはもっぱら店頭だ。そういえば今年は、秋の味覚のマツタケを見かける機会が少なかった。見つけたところで食卓に上ることはないが

▼しば拾いやまき集めで山と人々の暮らしが密接だった昭和初期には安かったというマツタケも、2年前には国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に加わった。季節ならではの味わいは時とともに遠くなった。

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