「ちょっと何言ってるか分からない」。相方のボケに突っ込む、お笑い芸人のせりふを口にしたくなった。突っ込む相手は総務相を更迭された寺田稔氏である
▼「政治とカネ」の問題が相次ぎ、説明責任を果たすことが求められた。政治資金の所管大臣でありながら、自身の政治資金に関する釈明に連日追われる姿は異様だった。政治資金に対する国民の信頼は、すっかり揺らいだ。にもかかわらず、自身の説明ぶりについて「地元の方々からは『説明に感心した』という声しか聞いていない」と悪びれずに語った
▼これは漫才でいうボケだったのか。ボケでなく本当にそんな声しか聞いていないとしたら、世間の実情を正しく把握できていなかったことになる。閣僚、政治家としての資質に疑問を呈されてもやむを得ない
▼7世紀、唐の第2代皇帝の太宗(たいそう)は重臣の魏徴(ぎちょう)に名君と暗君の違いを尋ねた。魏徴の答えは明解だった。「君の明らかなる所以(ゆえん)の者は兼聴(けんちょう)すればなり。其(そ)の暗き所以の者は偏信(へんしん)すればなり」
▼つまり名君は多くの人から多種多様な判断材料を得て、適切に判断を下す。これに対し、暗君は特定の人からの耳障りのよい意見ばかりをうのみにしてしまう。リーダー論として、あまりにも有名なこの故事を、本人もご存じないはずはあるまい
▼先月来、岸田内閣の閣僚が交代するのは3人目である。前法相の更迭の際に小欄に書いた言葉を再び記したい。この内閣の「適材適所」とは何なのか。「辞任ドミノ」は現実となった。