「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」。中学、高校と古文は、数学と同じくらい嫌いだった。でも、ひょんな拍子で耳にこびりついていたフレーズがよみがえることがある

▼「平家物語」の冒頭の一節もその一つ。平安末期の源平の争乱を描いた軍記物語だ。祇園精舎は京都の寺だと思っていたら、古代インドの仏教の聖地にある僧院だった

▼その鐘の響きから「この世のものは全て変化し続け、永遠なものなどはない」といった無常感が伝わる、という意味か。諸行無常は仏教の根本思想。この一節が浮かんだのは「パーマクライシス」という新語を聞いたからだ

▼英語辞典「コリンズ」の英国法人がこの単語を「今年の言葉」に選び、辞書に加えたという。「長期間続く不安定な状態」と定義された。我流に訳せば、パーマは髪にウエーブをかけるのと同様に「持続する」「不変の」という意味だろうから「半永久の危機」あたりか。「終わりなき重大局面」とも言えようか

▼ロシアのウクライナ侵攻に核の威嚇、ウイルス禍や気候変動…。地球規模の危機が同時並行し、変転すれども終わる気配はない。世界の人々が同じ難題を共有していることを実感させる新語だ

▼吉田兼好が鎌倉時代末の動乱期に書いた随筆「徒然草」も「平家物語」と同じく、無常感が根底にあるとされる。「世は定めなきこそいみじけれ」(第七段)。この世は予想不可能だからこそ素晴らしい、と無常を前向きに捉えた先達が今いたら、何と言うだろう。

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