「V字回復」という言葉がある。いったん急降下した記録や業績が、ある時点を境に急上昇して元の水準に戻る。折れ線グラフにすると、アルファベットの「V」を描いたようになる

▼Vの字は谷の断面のような形だが、全く逆の山のような折れ線を先日の紙面に見つけた。信号機のない横断歩道を歩行者が渡ろうとしている状況で、一時停止した車の割合についての記事だ。本県は一時、順調に割合が伸びていたが、その後急降下してしまった

▼日本自動車連盟(JAF)が毎年、全国で調査している。全国平均は2018年が8・6%だったが、22年は39・8%と右肩上がりに増えた。本県は18年の13・8%から20年には49・4%に急上昇したが、22年になると25・7%に急降下してしまった

▼道交法は横断歩道を渡ろうとする歩行者がいる際、車両は一時停止しなければならないと定めている。一時停止はマナーではなく、法律が定める義務なのだが、守られないことが多い

▼わが身を振り返ると、偉そうなことも言えない。横断歩道を通り過ぎるかどうかという時点で歩行者に気づくことがある。「しまった」と悔やんでも遅い。心のゆとりを失って、注意力が散漫になっていたか。横断歩道に近づいてもスピードを落としていなかった可能性もある

▼本県の一時停止率が逆V字を描いたのは、ドライバーが心のゆとりをなくしていることが一因かもしれない。しっかりと一時停止する心のゆとりがあれば、事故防止にもきっと役立つ。

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