子育てに王道はない。手探りを繰り返す毎日が、やがてわが家の子育てになっていく。いろいろなパパに話を聞き、それぞれが歩んできた「パパの細道」をのぞかせてもらう全5回の対談企画。第2回目のゲストは、株式会社日伸設備の板垣さんと土沼さん。まっすぐ突き進んだ一本道か、ワイルドに切り開かれた獣道か。今回はどんな細道が待っているだろうか。

横田孝優
コピーライター。9歳(男)・6歳(男)・6歳(女)の3児のパパ。企業や商品のブランディングやライティングなどを手がける他、新潟日報社発行のフリーペーパーasshにて「子に溺れる~長男+双子男女のエブリデイ~」を連載中。https://ztdn.net/

板垣英一さん
株式会社日伸設備代表取締役。2003年の入社当時は50~60代の社員が中心だったため、若手の積極採用を開始。さらに定着率向上のために、男性の育休取得を推進する。男性社員11人のうち、過去5年間で3人の社員が育休を取得。

土沼祐司さん
株式会社日伸設備入社9年目。工事主任として建物の空調の配管、電気設備の施工を担当する。9歳の優龍(ゆうり)くんと4歳の紫月(しづき)ちゃんのパパ。板垣さんに勧められ、第2子の誕生と同時に2週間の育休を取得した。
先輩の一言が後押しに
土沼 育休は社長に勧められたんですが、すでに何人も先輩が取っていて、会社の中に取って当たり前という雰囲気ができていました。ただ僕は現場をまとめる仕事をしているので、休んで大丈夫かな、みんなは大変じゃないかな、と心配もありました。
横田 どの時期に、どれぐらいの期間、取られたんですか?
土沼 産後の妻と子どもが退院してすぐ、2週間でした。でも、先輩の「良かったよ」という話を聞いて、育休を取ることを決めました。
横田 その期間は、どのように過ごしましたか?
土沼 当時5歳の上の子を幼稚園に送りました。それまで送り迎えをしていなかったので、最初は失敗もしました。子どもの荷物は何を持っていけばいいのか全然分からなくて、手ぶらで行ったことも(笑)。「お父さん、リュックサックありますか?」と先生に言われて取りに戻ったこともあります。
横田 (笑)。あとはどんなことを?
土沼 生まれたばっかりの下の子をお風呂に入れるとか。妻からいろいろと教えてもらいながら。
横田 赤ちゃんをお風呂に入れるのって大変ですよね。お風呂に入れる人と、受け取ってタオルで拭く人が必要ですもんね。

生後3カ月の長女・紫月ちゃんを抱っこして寝かしつけている土沼さん。かわいらしい寝顔に、思わず写真を撮ってしまった
あっという間の2週間
横田 2週間は長かったですか、短かったですか?
土沼 そうですね…結構あっという間だったかもしれないですね。1日1日があっという間に過ぎました。やることがいろいろあって、意外と早く終わったなと感じます。仕事よりも家にいる方がやっぱり大変でしたね。
横田 何が大変でしたか?
土沼 分からないことばかりで、普段どれだけ子どものことをやっていなかったかを気付かされました。
横田 何が一番難しかったですか?
土沼 お風呂がやっぱり一番難しいというか、緊張しましたね。
横田 落としたら大変ですもんね。でも慣れてくると赤ちゃんは気持ちよさそうにするし、楽しいですよね。
土沼 そうですね、すごく良い顔をしてくれて。最初は、結構力が入っちゃってたんですけど、段々慣れていくと、気持ち良さそうに入ってるんで。またそれを見ながらいいな〜って。
横田 癒やされますね。

家族でイチゴ狩りに出かけた際、記念に撮影。長男・優龍くんは、元気いっぱいにポーズをとっている。紫月ちゃんは、みんながイチゴ狩りを楽しんでいる間ずっと寝ていたそう。全員がイチゴのグッズを身に着け、楽しそうな雰囲気が伝わってくる
きっかけは若手の採用
横田 板垣さんにうかがいたいんですが、男性社員の育休取得に力を入れたのはなぜだったんですか?
板垣 当社は1980年に設立。エアコンや給湯器の工事、修理をする会社です。私は2代目の社長。2003年に入社したんですが、当時は50〜60代のベテランばかりだったんですね。この先未来のある会社にしていくために、若手の積極採用をスタートさせました。その後、それなりに若い社員は増えたんですが、彼らはこれから子どもを育てていく世代なんですよね。「来年生まれるんだ」とかそんな話が聞こえてくる中で、自然と「やっぱり育休はいるよね」となりました。
横田 そうなんですね。
板垣 当社で最初に育休を取った男性社員が、普段から全然休みを取らない人だったんですよ。でも育休の話をしたら意外と乗ってくれて。彼が社内のムードメーカーでもあったので、2人目・3人目が取りやすくなったと思います。それが2014年のことです。
横田 8年前。
板垣 はい、それで男性も育休を取るベースができた。「じゃあ次、誰が取る?」と、一気に定着しました。
育児が社内共通の話題に
横田 でも、「男が育休なんて」みたいな反発とか、「本当に必要なの?」という後ろ向きな意見はなかったですか?
板垣 当時60歳くらいのベテランがいて、この話題をきっかけに意外とイクメンだったことが分かりました。
横田 へ〜!
板垣 娘さんはもう大人だったんですけど、すごく仲が良かったようです。高血圧を心配してごはんを作ってくれたとか、良い話がたくさん聞こえてきました。逆風どころか、みんなの共通の話題ができましたね。
横田 そうなんですね。「男が休んで何をするんだ」みたいな声が出てきて、若い人が取りづらくなるという話も聞きますけど。
板垣 それはよそでは聞きますね。社外の方と育休の話になると「何するんだろうね」なんて言われることもあります。実際は、やることいっぱいありますよね。
横田 ありますよね。うちも3人いるので、やることいっぱい。
板垣 ですよね(笑)。育児をしてこなかった男性ほど「別に男がやることないでしょう」みたいなことを言うのはね、よく聞きます。でも、うちの会社の中では割とみんながムードを盛り上げてくれましたね。
横田 社内のチームワークにつながっているんですね。男性社員が育休を取得するもう一つのメリットかもしれませんね。
(後編に続きます)