子育てに王道はない。手探りを繰り返す毎日が、やがてわが家の子育てになっていく。パパたちが歩んできた「パパの細道」をのぞかせてもらう対談企画。3rdシーズンのテーマは長いようで短い「子どもと過ごす時間」。今回はどんな細道が待っているだろうか。

横田 孝優
コピーライター。11歳・8歳の双子の3児のパパ。企業理念の開発やホームページの文章制作などを手がけるほか、新潟日報asshにて2024年1月まで子育てコラムを連載。 https://ztdn.net/

関 智晴さん
新潟県南魚沼市で米作りを行う「関農園」の代表取締役。「米・食味分析鑑定コンクール:国際大会」で世界一である金賞を6回受賞。元プロスノーボーダーという経歴も持つ。19歳・17歳・15歳・4歳の4人の子どもの父。

〈関さんのある一日〉
朝5時ごろに起きたらまずは田んぼの見回り。子どもたちが起きてきたら朝食を取り、出かけるまで一緒に過ごす。時間の都合をつけやすい仕事のため、子どもたちが帰宅した時に自宅で迎えてあげられる日も多いとか。仕事の後は外に飲みに行くことなどはほとんどなく、家族と一緒に過ごすのが何よりも心休まる時間。翌朝も早いため、21時ごろに末っ子の次男くんに誘われて一緒に就寝。
平日も週末も子どもと
横田 関さんは米農家としてのお仕事の他に、「FARM FRONT SEKINOEN」という直売所とおむすび屋さんの複合店舗も経営されています。お忙しい毎日だと思いますが、お子さんと一緒に過ごす時間はどれくらいありますか?
関 そうですね。うちはかなり長い方だと思います。19歳の長女は東京の美術大学に進学、17歳の長男はカナダに留学しているので、現在は私・妻・次女・次男の4人暮らし。
朝は次男が保育園、次女が学校に行くまでの間、ずっと一緒にいます。彼らが帰ってきてからも、僕が家にいることが多いので、ほとんど一緒にいます。僕自身、外に飲みに行ったり、友達と過ごしたりすることが少なく、家族と一緒にいるのが好きなんです。平日でも朝と夜はずっと一緒に過ごし、土日もできればどちらか一日は家族と過ごすようにしています。
横田 最近では、全国放送のテレビ番組でも密着取材を受けていらっしゃいました。さらにお忙しいのではないかと思ったのですが。
関 放送後は私に会いに来てくれるお客さまも多く、お店にいなくてはいけない時間が増えました。そのため、2週間に1回ほどしか家族と出かけられていない状態です。放送前は土日に公園や遊園地に出かけることが多かったですね。一日がかりで外出するのが定番でした。
横田 現在は冬ですが、稲作の時期になると時間の使い方は変わりますか?
関 そうですね。稲作の時期は朝早く5時ごろに田んぼの水を見に行き、7時ごろには帰ってきます。その時間帯に子どもたちが起き始めるので、一緒に朝ごはんを食べたり出かける準備をしたりします。その後、自分は仕事に出て、子どもたちは学校や保育園に行きます。夕方は7時ごろに帰宅し、妻が子どもたちをお風呂に入れてくれた後、一緒に夕飯を食べて、夜は子どもと一緒に過ごします。末っ子が一緒に寝ようと言うので、9時半ごろには一緒に寝てしまうことが多いです。
全員のやりたいこと
横田 中学生の子育ては私にとっては未知の領域なのですが、接し方や過ごし方に変化はありますか?
関 そうですね。友達と遊びに行くことが増えるので、一緒に出かける機会は減ってきました。ただ、先日久しぶりに長女が帰省したので、下の子たちも連れて家族みんなで軽井沢に行ってきました。ランチは食の勉強になるようなちょっといいお店を選び、午後は遊園地や公園、最後にアウトレットで買い物をするというように、家族全員のやりたいことを盛り込んだプランです。
横田 それはすてきですね。1日のスケジュールの中に全員のやりたいことをしっかり組み込むのは大変そうですが、素晴らしいです。

子どもたちの年や好みは違っていても、できるだけみんなが楽しめるお出かけプランにすることで、家族一緒に過ごすことを心がけているという
関 うちは子どもたちにもいろんなことを学んでほしいと思っていて、例えば、食に関しても少し勉強してもらうようにしています。農業やおむすび屋をやっていることもあって、食べ物のこと、さらに米作りとその背景を伝えるのは、自然な流れだと思っているんです。そういう意識を子どもたちにも持ってもらえるよう、普段から話すようにしています。
食べ物に関しては、味覚を磨いたり、食べ方や見せ方にも興味を持たせたりするようにしていて、子どもたちもそれをポジティブに捉えてくれています。そのおかげか、長女や長男なんかは、いい店に行くのが好きです。例えば、長男が留学先から帰ってきたときに家族で旅行に行くと、コース料理のあるレストランに行きたがります。
そういった体験があったからか、最近では「料理人になりたい」とか、自分から言っています。次女も「ここの料理はおいしいね」とか「お店の内装がすごいね」とか、楽しんでくれていますね。

地の食材を存分に味わえる、宿泊施設「尾瀬十帖」のレストランにて家族で食事をした際の一枚。こだわりの料理をこだわりの空間で味わう経験は子どもたちにとっても貴重だ
仕事よりも子ども優先
横田 すごいですね。そうやって感覚が鍛えられていくんですね。19歳のお姉ちゃんと17歳のお兄ちゃんがまだ家にいた時も、今と同じような過ごし方をしていましたか?
関 そうですね。長女はスポーツをあまりやらなかったんですが、長男は野球やスキーをしていました。当時は野球の試合が土日に必ず入ってくるような感じで、仕事が忙しい時期でも試合のために時間を作ることを優先していました。
仕事よりも子ども優先、というのが自分の中のルールです。経営者だと、つい仕事第一にしてしまいがちですけど、子どもとの時間を作らないと、それこそ仕事の意味がなくなると思っています。だから、重要な仕事以外は少し妥協してでも、なるべく子どもと過ごす時間を優先的に確保するようにしています。
長女はスポーツには興味がありませんでしたが、手先がとても器用で、絵を描くのが好きでした。それで、美術大学を目指すよう勧めたところ、現在は東京の美術大学に通っています。将来は関農園の米のパッケージなどをデザインしてほしいと話しています。
そういう背景もあって、旅行や外食でも、デザインが優れたお店を選ぶことが多かったです。「このデザインがいいね」とか、「この看板かっこいい」とか、子どもたちも楽しんでくれていますね。
横田 なるほど。
関 長男はフリースタイルスキーでカナダに留学しています。勉強が苦手だったので、地元の高校に行くよりも、留学した方がいいんじゃないかって話になったんです。英語を少しでも覚えてきた方が絶対に意味があるだろうと思って。
そう言ったら、本人も「そうする」と言い出して。自分で勧めたのものの、内心「え、マジで?」って感じでしたね(笑)。今はカナダで英語の勉強をしながら、スキーの練習も続けています。ただ、スキーだと将来そこまで金銭的に恵まれるわけでもないし、プロになったとしても厳しい現実があるんですよね。
そういう話をしていたら、本人が「料理人になりたい」って言い出して。いろんなお店に行ったり、家でもちょっと凝った料理を作ったりしているんです。僕らも褒めているうちに、日本に戻ったらどこかのお店で修行をしたいと言うようになりました。
子どもたちの好きなことを見つけて、それをひたすら伸ばしていけるように意識しています。普段の会話だったり、出かける場所だったりでも、常にそういうことを考えていますね。あまり意味のないお出かけはしたくないという思いがあって。こだわりすぎて妻には「面倒くさい」と思われることもありますが、協力的にやってくれているので助かっています。

カナダ留学中の長男さんを空港で見送る関さん一家。関さんは、子どもの可能性や、少しの「やりたい」という気持ちを見逃さず、背中を押してあげることを大切にしているという
(後編に続きます)