子育てに王道はない。手探りを繰り返す毎日が、やがてわが家の子育てになっていく。パパたちが歩んできた「パパの細道」をのぞかせてもらう対談企画。3rdシーズンのテーマは長いようで短い「子どもと過ごす時間」。今回はどんな細道が待っているだろうか。

横田 孝優
コピーライター。11歳・9歳の双子の3児のパパ。企業理念の開発やホームページの文章制作などを手がけるほか、新潟日報asshにて2024年1月まで子育てコラムを連載。 https://ztdn.net/

坂田 匠さん
建築金物の製造・販売などを展開する長岡市のサカタ製作所代表取締役。2018年に男性育休100%を達成し、現在まで継続中。その他にも残業時間ゼロや製造業でのテレワーク推進など、革新的な働き方を実現している。
仕事をもっとお気楽に
横田 パパの細道3rdシーズンに登場していただいたパパは、比較的自分で仕事のスケジュール調整ができる方たちでした。そういう方は、子どもと過ごす時間が確保しやすい部分もあると思います。
ところが、世の中の多くのパパは会社勤めをされていて、会社の制度や文化、残業の有無、育休の前例など、職場環境に左右される部分も多いのではないかと思います。そんな中で、パパたちはどのように子どもと過ごす時間を豊かにしていけばいいか、ぜひご意見を伺えますか。
坂田 世の中の価値観は激しく移り変わるものです。仕事が人生の全てであり、「親の死に目に会えなくても仕事を優先することが美徳」とされた時代もありました。でも、その優先順位は変えるべきです。
まず最優先は「自分自身」です。そして、次が「家族」です。自分自身を大切にできなければ、家族にも優しくできません。では「仕事の優先順位」はどこに位置するのでしょうか? 家族のすぐ下かというと、そうではないと思っています。
社員たちにも伝えていますが、「仕事の優先順位は、趣味の上か下でいい」と思っています。例えば、釣りを趣味とするならば、『釣りバカ日誌』のハマちゃんは間違いなく仕事より釣りを優先します。一方で、『クッキングパパ』の荒岩さんは料理が好きですが、おそらく仕事のほうが優先度は高いでしょう。
例えば、釣りに行って魚が釣れなかったとしても、「まあ、そんな日もあるさ」と思えますよね。釣りに行って魚が1匹も釣れなかったからといって、寝込むほど思い悩む人はいません。その程度の「お気楽な感覚」で仕事を捉えるくらいのほうが、生産性も上がるものです。
会社としても「仕事は人生において絶対的なものではない」と宣言することが重要です。例えば、うちは有給休暇もすぐに取れますし、1時間単位で取得できる制度も活用されています。
昔は、保育園から「熱が出ました」と連絡が来ると、母親が迎えに行くのが当たり前でした。でも、うちの会社では、「男性でも普通に迎えに行く」というのが当たり前になっています。
そういう風に気楽に、いい意味で緊張感なく仕事をすることで、むしろ家庭を大切にできるのではないでしょうか。仕事の優先順位を高くしすぎるのは良くないと私は思います。
平均年齢が上がってもいい
横田 なるほど。仕事の優先順位を下げることで、家庭とのバランスが取りやすくなるんですね。
坂田 そうです。でも、ちゃんと事業は成長し続けていますから、大丈夫です。

「育休取得により現場で稼働できる社員が減っても、その社員の働きを補おうと周りが動いてくれるおかげで、むしろ生産性が前よりも上がるんです」と坂田社長
横田 優先順位を下げると仕事に対する責任感や熱意が下がってしまうのでは、と思う方もいそうです。
坂田 それは勘違いです。今は人材難ですが、募集をすれば、ありがたいことにたくさんの応募をいただきます。そして、当社の社員たちも長く活躍してもらっているうちに年齢を重ね、平均年齢が上がってきています。
でも、それでいいのです。平均年齢が高くなっても、若い企業に負けないように闘う。そういう会社が増えないと、少子高齢化による人材不足に対応できません。
横田 すごいですね。先を行く考え方だと思います。
坂田 これは単なる思い付きではありません。「こうでなければならない」という常識から離れることが大切だと考えています。当社のような会社が増えれば、世の中のパパたちももっと豊かに子育てができるようになるんじゃないかと思います。
大変でも、楽しんでほしい
横田 「サカタ製作所に続け!」という感じですね。
坂田 しかし、今話していることは、サカタ製作所にとっては昔話です。私自身、男性育休や残業ゼロをテーマに、たくさん講演をさせてもらっていますが、それらは全て「過去の話」です。今、うちはさらにその先に取り組んでいます。
横田 今、サカタ製作所はどんなことに取り組んでいるんですか?
坂田 現在進行形で取り組んでいるのは、やはりDXです。そして、ダイバーシティも進めています。女性活躍は最優先課題ですし、外国人採用にも力を入れています。性別、国籍、宗教など、一人一人違うことを理解し、受け入れ、生かしていく。企業としてこのような取り組みが必要になると考えています。

「会社の在り様を以って、社会全体を変えるのが目標」と、坂田社長。常識にとらわれず時代の先を行く働き方をこれからも推進していきたいと語った
横田 最後に、子育てを頑張っているパパやママに向けてメッセージをお願いします。
坂田 子育ては大変でしょうけど、ぜひ楽しんでください。もし「大変だ」と思っても、10数年で子どもは必ず親離れします。だから、「大変な時期は必ず終わる」ということを忘れずにいてください。私の3人の子どもたちはもうみんな30代。今となっては、子ども時代が懐かしくて仕方ない。小さい頃は「早く大きくならないかな」と思いましたが、いざ大きくなると「なんでこんなに早く成長してしまったんだ」と思うものです。子育てって楽しいものだと思えたら、きっと人生も素晴らしいですよね。
(終わり)