子育てに王道はない。手探りを繰り返す毎日が、やがてわが家の子育てになっていく。パパたちが歩んできた「パパの細道」をのぞかせてもらう対談企画。3rdシーズンのテーマは長いようで短い「子どもと過ごす時間」。今回はどんな細道が待っているだろうか。

横田 孝優
コピーライター。11歳・8歳の双子の3児のパパ。企業理念の開発やホームページの文章制作などを手がけるほか、新潟日報asshにて2024年1月まで子育てコラムを連載。 https://ztdn.net/

田実 智幸さん
9歳・6歳・3歳の男の子のパパ。大学卒業後に10以上の国で仕事をした後、アルメニア人の妻と結婚。子どもが生まれたことをきっかけに、より良い子育て環境を求めて2019年に東京から阿賀町へ移住。
投げ放題の遊び環境
横田 田実さんが阿賀町を移住先に選んだのは、なぜですか?
田実 上の子二人は東京で生まれ、次男が生まれてすぐのタイミングで移住したのですが、阿賀町を選んだのは本当にたまたまなんです。以前参加していた青年海外協力隊の同期が阿賀町で働いていて、彼から紹介を受けたのがきっかけです。東京で飲み会をした時に、彼が楽しそうに仕事の話をしていたんですよ。
それで、紹介してとお願いしました。それから2回ほど阿賀町へ視察に来たんです。自然が本当にきれいで、ここで子育てができたらいいなと思いまして。他の地域と比較したわけではなく、「ここに決めた!」という感じで移住しました。
横田 なるほど。子育て環境として自然が多いところというのは、やはり重要なポイントでしたか?
田実 以前は東京の大田区に住んでいたんですけど、当然暮らしの周りの自然は限られていました。それに公園に行ってもすごく気を遣いましたね。人がたくさんいるので、子ども同士がぶつからないようにとか、相手にけがをさせないようにとか、順番を守るようにとか、いろいろなことに気を配る必要がありました。
でも阿賀町では、公園はいつも貸し切り状態。遊び方も全然変わりましたね。投げる系の遊びが増えました。野球にフリスビーやブーメランなど、投げ放題です。子どもたちは自由にのびのび遊んでいます。本当にストレスフリーな環境です。

田実さんが見守る中、木登りをする3人の息子さん。こうしてわんぱくに思い切り遊ぶ光景は、移住前の環境では考えられなかったのだとか
横田 移住してみて、新潟はどんなところが良かったですか?
田実 東京と比べて感じるのは、やっぱりお米がすごくおいしい。そして、きれいな水がある環境は素晴らしいですね。お正月に埼玉の実家に帰った時、水道水を飲んで違いに驚きました。新潟の良さを改めて実感しましたね。
冬はスキーを楽しめるのも魅力です。車で片道15分の距離にスキー場があるので、長男と一緒にスキーを楽しんでいます。いつの間にか長男の方が上手になっていて、いつも置いていかれています。
日本が全てじゃない
横田 子どもは覚えるのが早いですもんね。スキー場が近いというのも、新潟ならではです。東京と比べると不便な部分もあるかと思いますが、子育てをする中で新潟の大変なところはありますか?
田実 阿賀町に限定すると、小児科のかかりつけのお医者さんがいないことでしょうか。子どもが熱を出すこともあれば、アレルギーもあるので、診察が必要な時は隣町まで行かなければなりません。もう慣れてしまいましたが、車で40分ほどかかります。
他にも、習い事の選択肢が少ないというのはありますね。探せば意外とあるようですが、やはり都会ほど多くはないです。その分、家族で協力して経験を積めるようにしています。例えば、川で泳がせて水泳の練習をしたり、虫をたくさん飼って観察したり、きれいな星空を見て宇宙について学んだり、妻が英語を教えたり、そんな感じでこの環境を生かしながら子育てをしています。
横田 そういう工夫のおかげで、一緒に過ごす時間が増えるのかもしれないですね。
田実 そうですね。お金を払えば何でもできる環境があったら、きっと人任せになっていたかもしれません。今の環境だからこそ、自分たちで工夫する楽しさがあるんだと思います。
横田 教育方針として大事にされていることがあれば教えてください。
田実 妻が外国人ですし、私自身もいろいろな国に住んだ経験があるので、世界の多様性や価値観をできるだけ生活に取り入れるようにしています。
そうすることで、子どもも阿賀町にいながら「日本だけが世界じゃない。世界は広いんだ」といった視点を持てるといいなと考えています。本当に世界は広く、いろんな人がいて、いろんな考え方や素晴らしい文化があるということを、少しずつ学んでほしいです。
食を通じて知る異文化
横田 具体的には、どんな場面でお話をされるんですか?
田実 日常だと食べ物ですかね。妻がアルメニア料理を作ってくれることもあるので、「これは日本でほかに食べられるところはないよ」とか言いながら、その背景を話しますね。
アルメニア料理には乳製品、特にチーズが多く使われますが、食文化の背景には、その国の気候条件や家畜と暮らす歴史的背景なども関係しています。そういったことを少しずつ説明しています。
宗教的な行事に関する話題もします。アルメニアのクリスマスは日本と食べるものが違いますし、日付も1月6日なんです。
横田 確かに日本にいると、日本式のクリスマスしか知らないですよね。チキンを食べる日になっています。アルメニアは、どうして時期が違うんですか?
田実 アルメニアは世界で初めてキリスト教を国教と定めた国としても知られますが、原始キリスト教では暫定的に1月6日をクリスマスにしていたことに由来するからだそうです。
横田 なるほど、キリスト教の中でも違いがあるんですね。アルメニア料理の知識がないのですが、代表的なものはどんな料理なんですか?
田実 主食はパンなんですけど、そのパンが特徴的で、丸く膨らませるのではなくて平たくて、クレープみたいな薄さのパンなんですよね。それに肉や野菜を包んで食べるというのが一般的な食事になります。
アルメニアはぶどうの葉で作るロールキャベツのような地中海料理に近いものもあれば、ロシアやウクライナのボルシチなんかも食べます。いろいろな地域の食文化が混ざっているので、一言では表現しにくいですね。
クリスマスには、ピラフを食べます。日本でイメージされるような、エビや卵が入ったピラフではなくて、ドライフルーツを入れたチャーハンのような感じですね。巨大なハムの塊を買い置きしてスライスして食べるのもクリスマスならではです。チキンは食べないですね。日本のクリスマスよりも、もっと神聖で厳かな雰囲気の食事という感じがします。

アルメニア料理の食事風景。右上部に写っているのがピラフ、右下に写っているのが主食のパンだ
横田 未来の話に移ります。お子さんがどんどん大きくなっていく中で、一緒にやってみたいことや、こう過ごしたいなと思うことはありますか?
田実 基本的には子どもとは友人のような関係でいたいと思っています。一緒に遊んで、一緒に勉強しながら、世の中の素晴らしいところを一緒に楽しんで成長してくれたらいいなと思いますね。自分が経験してきた美しい景色やおいしい食べ物なども少しずつ共有しながら、そういう時間を大切にしたいです。
横田 最後に、この記事を読んでいる子育て中の読者の皆さんにメッセージをいただけますか?
田実 子どもたちは未来を担う存在なので、より良い社会になるようにできることを一緒に頑張りましょう、ということを伝えたいです。お父さんお母さんが力を合わせて、未来のために頑張れるといいですね。

週末は家族みんなでお出かけ。自然の豊かさに魅せられ移住した新潟県で、子どもたちと夏は水遊び、冬はスキーと四季を通して遊び尽くす
(終わり)