子育てに王道はない。手探りを繰り返す毎日が、やがてわが家の子育てになっていく。パパたちが歩んできた「パパの細道」をのぞかせてもらう対談企画。3rdシーズンのテーマは長いようで短い「子どもと過ごす時間」。今回はどんな細道が待っているだろうか。

横田 孝優
コピーライター。11歳・8歳の双子の3児のパパ。企業理念の開発やホームページの文章制作などを手がけるほか、新潟日報asshにて2024年1月まで子育てコラムを連載。 https://ztdn.net/

工藤 淳之介さん
BSN新潟放送のアナウンサー。ソフトテニスやピアノ演奏が趣味で、テレビやラジオなどで幅広く活躍中。2023年に第1子が誕生。4カ月間の育休中、一日も欠かさずインスタグラムで育児日記を更新。
〈工藤さんのある一日〉
毎朝の絵本の読み聞かせは必須。娘さんにせがまれて毎日4~5冊は読むため、良い発声練習になっているんだとか。週に一度はリフレッシュのためにテニスに通う。分刻みのスケジュールで娘さんのごはんとお風呂のお世話を全て済ませてから向かうため、間に合った時の達成感はひとしお。娘さんが生まれたことで、少しでも早く帰れるよう仕事への集中力も高まり、仕事面でプラスの影響も出ているそう。

楽しいだけじゃない時間
横田 パパの細道3rdシーズンは、「時間」がテーマです。ある調査によると、父親が一生のうちに子どもと一緒に過ごせる時間を合計すると3〜4年ほどしかなく、小学校を卒業する頃には半分が終わってしまうというデータがあります。そこで今回は、パパと子どもの過ごし方についてインタビューしながら、限られた時間をどのように大切にしていけばいいのかを考えてみたいと思います。
工藤 今のお話を聞くだけで、もう早く家に帰って遊びたくなりますね(笑)。今日は16時に僕が迎えに行くことになっているので待ち遠しいです。

お子さんの話になると思わず笑顔がこぼれる工藤さん。少しでも早く家に帰れるよう、以前にも増して仕事の進め方や効率を意識して働くようになったのだとか
横田 では、なるべくスムーズに対談が終わるようにしますね(笑)。まずは、育休について伺いたいと思います。1年前、同じBSN新潟放送の黒崎さんと対談した際には、お仕事などを理由にかなり迷った結果、育休を取得しなかったというお話を伺いました。工藤さんは4カ月の育休を取得しましたが、葛藤はありましたか?
工藤 僕が育休を取ろうと思った理由は、「人生の中で今しかない時間を大切にしたい」という思いが強かったからです。「今やっていること」や「今しかできないこと」を大事にしたいという気持ちが、ずっと自分の中にあるんです。たとえ忙しい仕事を一時休むことになっても、「今しかない瞬間」に立ち会うためには、育休が必要だと感じました。子どもの「初めて」を見届ける機会を逃したくなかった。他にもいくつかの理由があるのですが、それが一番でした。
横田 しかも工藤さんの育休中、奥さまは仕事に復帰されていたそうですね。
工藤 いわゆる「ワンオペ」です。正直、想像以上に大変な日々でしたね。妻は産後3カ月で仕事に復帰しました。彼女は社交的で人と会うのが好きなタイプなんですが、妻の仕事復帰前、夜に僕が仕事から帰宅すると、「今日一日誰とも話してないし、メイクもしなかったし、ずっと部屋着だった」といった話が出てきて、正直ちょっと疲れた様子でした。その時は「せっかくだから子どもと一緒にいられる時間を楽しめばいいのに」などと勝手に思っていました。
でも、実際に僕が育休を取って10日ほど経った時、一日中マンツーマンで子どもと向き合うってこういうことかと気付かされました。心から妻に「ごめん」と思いましたね。
リスナーの気持ちを理解
横田 ちなみに、育休を取ることはどの段階で決めていたんですか?
工藤 妊娠中にはもう取ろうと思っていました。ただ「いつから何カ月取るか」という具体的なスケジュールは調整が必要でしたね。結局、2024年の5月1日から8月31日までの4カ月間取りました。
テレビ業界では、上半期が4月から9月まで、下半期が10月から3月なので、本当は4月から9月までの半年間取りたかったんですね。でも、4月からは新番組のスタートや年度替わりに伴う仕事があり、一方で9月には外せない仕事が入っていたので、結局5月から8月末までの4カ月という形になりました。本音を言えば、できれば1年取りたいくらいだったんですけど。
横田 仕事の調整があって4カ月になったんですね。
工藤 はい、気合いで調整しました。正直、周りから何か言われてもぶれない心は必要ですね。「なんで育休取るんだろう?」とか「育休中に何してるの?」といった疑問を持つ人もいるんですよ。でも、「育児してるんだよ!」って話ですよね(笑)。分からない人には、やっぱり分からないので、育休の直前はそういう人とはあまり話さないようにしていました。
それでも、最近は総務や人事の部署から「取らないんですか? ぜひ取ってください」と声をかけられるようになってきました。男性が育休を取る文化が少しずつ広がってきたのはいい傾向だと思います。
横田 アナウンサーとして4カ月の育休というのは長い方なんですか?
工藤 はい。後輩の男性職員が3カ月取りましたが、それでも長い方だと思いますね。
育児って楽しいし、子どももかわいいはずなのに、時々寂しさや孤独感、苦しさを感じるんですよね。僕がラジオをやっていた時の午後の番組を思い出すんですよ。あの時、自宅で子育てをしている方からたくさんメールが来たんです。育児がしんどいとか、毎日の献立を考えるのが大変という内容でした。「お疲れさまです」と答えていましたが、今思うと、心のどこかで仕事をせずに家にいるんだから何とかなるだろうと思っていた部分があったかもしれません。実際に育児を体験して、そのことを反省しました。

おそろいのキャラクターの洋服を着てパシャリ。「毎日コロコロと変わる子どもの表情を逃さず見られたのは、育休を取得してしっかりと子どもと向き合う時間を作れたから」と工藤さんは語る
それでも振り返れば
横田 4カ月は長かったですか?
工藤 今振り返ると短かったし、もっと取っておきたかったなと思います。やっている最中はきつかったこともたくさんあったけど、今思うと、本当にキラキラした日々でした。戻りたいなって思うくらいです。
横田 不思議ですよね。過ぎてしまうと、つらかったことは全部忘れて、良かったことだけが残るんですよね。
工藤 育休を取る前から育児をしていたので、なんとかなると思っていたんです。子どもはまだ寝返りもしなくて、置いておけば寝ていました。でも、育休が始まると状況が変わり、子どもが動き回って「遊んでくれ!」というようになって、目を離すことができなくなりました。こんなに大変だとは思いませんでした。
横田 うちは双子だったので、1人が寝たと思ったら、もう1人が起きるみたいなことが日常茶飯事でした。
工藤 きょうだいがいる家庭や双子の家庭は想像できないです。
横田 2人一緒に寝てくれないと困りますからね。哺乳瓶を二刀流のように持ちながら、2人が一緒に眠るように試行錯誤していました。
工藤 育休中には、家族で遠出できたのは良かったですね。妻もお出かけが好きなので、テーマパークや北海道に行ったり、初めての飛行機にも乗ったりました。生後1カ月経った頃から軽井沢に行ったり、新幹線で何回も東京に行ったり、僕の実家の青森にも行きました。
7カ月の頃に横浜に行きましたが、それが一番ハードでしたね。妻は仕事の用事があって、その間に子どもと2人でテーマパークに行ってきたんです。朝8時から夕方4時まで2人っきりでした。トイレや食事は大変でしたけど、良い経験になりました。

北海道富良野市のラベンダー畑で撮った一枚。ニコニコした笑顔で娘さんの楽しそうな様子がなんとも愛らしい
(後編に続きます)