東京電力福島第1原発事故以前のような「原発回帰」が鮮明な政策転換だ。だが、多様な意見を反映させた丁寧な議論には見えない。結論ありきでは禍根を残す。

 経済産業省は、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で、原発活用策の方向性をまとめた行動計画案を提示した。

 「原則40年、最長60年」としてきた運転期間は、再稼働に向けた審査や裁判所の仮処分などで停止した期間を除外し、60年超の運転延長を可能にする。廃炉が決まった原発の建て替えを対象に次世代型原発の開発・建設を進める。

 年内に結論をまとめ、脱炭素社会の実現に向けた政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議に報告する。

 行動計画案は「原発依存度の低減」を明記したエネルギー基本計画を後退させ、新増設や建て替えを想定しないとしてきた方針を百八十度転換する。

 岸田文雄首相は8月に「原発の最大限活用」を表明し、ウクライナ危機に伴う燃料高騰、電力逼迫(ひっぱく)の回避や温暖化対策を理由に再稼働を急ぐ方針を示した。

 喫緊の対策が必要な電力問題と、数十年単位で考えるべき原発政策を結びつけて方針変更することにはあまりにも無理がある。

 首相の指示からわずか3カ月の議論で、原子力を脱炭素化の「けん引役」とまで持ち上げた計画案の前のめりぶりが際立つ。

 計画案に沿って運転延長を図っても、審査や訴訟で稼働できない期間はなくなるわけではなく、安定供給に直結するとは限らない。建て替えても稼働までには10年単位で時間がかかる。

 停止期間を除外して運転期間を計算することには、停止中も進行する経年劣化の影響が懸念されるが、その点についても納得できる説明はない。

 東電柏崎刈羽原発6、7号機は審査合格後もテロを防ぐ核物質防護体制の不備などが相次ぎ、運転停止が続く。7号機では長期停止で腐食が進んだとみられる配管に直径6センチの穴も見つかっている。

 福島事故を踏まえて、原発依存度を低減させる方針だったはずだ。「最大限活用」を優先し、安全性を巡る論議や施策を後退させることは許されない。

 計画案を審議する原子力小委は原発推進派が多数を占める。短期間の議論に、慎重派の委員が「拙速だ」と指摘するのは当然だ。立地地域の意見を聞くことはもちろん、国民的な議論が求められる。

 政府は昨年10月、再生可能エネルギーを最優先で導入する方針を明記したエネルギー基本計画を閣議決定している。

 エネルギー危機を脱し、脱炭素を進めるには再エネ導入が欠かせない。政府は優先順位を見誤ることなく、中長期的なエネルギー政策を検討してもらいたい。