湯沢町出身のオペラ歌手、笛田博昭さん(44)の存在を知ったのは15年余り前のこと。舞台を見に行くと、オペラにはまったく素養のない身だったが、素晴らしい歌唱力に圧倒された
▼取材に「音楽家にならなかったら、家業を継いで大工になっていた」と語ったのを思い出す。声の良さは歌好きの父親譲りとか。音楽人生を歩むきっかけは新潟市の敬和学園高校3年生の時だった
▼当時人気の「3大テノール」のまねをして歌っていた。先生から「声がいい」と県音楽コンクール出場を勧められ、いきなり優秀賞を獲得した。その後イタリア留学するなど研さんを積み、日本を代表するテノール歌手へと大きく飛躍した
▼飾らない人柄も魅力のようだ。新潟市で先日開かれたリサイタルで、それを感じ取った人も多いだろう。「風邪をひいて調子がすぐれない」と客席に正直に告げると、当初予定されていた曲目を次々と変更し、ピアノ伴奏者や司会者をはらはらさせた
▼いま歌えるベストの曲を披露したいとの思いがあったからに違いない。歌声は最後まで熱を帯び、観客を魅了した。「ちょろまかしたプログラムになってしまって」と、いたずらっぽい笑顔を見せてわびる姿に、ファンからは温かい拍手が送られた
▼外国語のアリアなどというと、敷居が高いイメージもあるが、笛田さんの歌はそれを感じさせない。昨年の演奏会もそうだった。次はオペラの舞台で主役を演じる姿を見てみたい。新潟で公演する日がいつか来ないだろうか。