子どもが安心できる安全な場所のはずの保育園で、信じられない虐待行為が繰り返されていたことに憤りを禁じ得ない。
園長は虐待を隠蔽(いんぺい)していた疑いもある。園を信頼し子どもを預けていた保護者が怒るのは当然で、裏切られた思いだろう。
なぜ虐待が繰り返されたのか。関係機関は実態解明に全力を尽くさねばならない。
静岡県警は静岡県裾野市の私立保育園に以前勤務していた保育士の女3人を、園児に対する暴行の疑いで4日に逮捕し、園と3人の自宅を家宅捜索した。
女児の顔を押したほか、男児の足をつかんで宙づりにしたり、別の男児の頭を殴ったりした疑いがある。被害に遭った園児3人は1歳児クラスに所属していた。
市は8月に情報提供を受け、調査していた。先月30日に6~8月にあった15例の虐待を発表した。
カッターナイフを見せて脅す、寝かしつけた園児に「ご臨終です」と発言する、ズボンを無理やり下ろす、といった信じ難い行為が常態化していた。
園の聞き取りに逮捕された3人は「しつけだった」などと釈明しているが、保育士の資質を欠くと言うほかない。
被害に遭った子どもや目撃していた園児たちへの影響が心配だ。
見過ごせないのは、園長が虐待行為を口外しないとの誓約書を全ての保育士に書かせていた疑いがあることだ。
虐待行為は園内でたびたび目撃されていた。園は6~7月に内部通報を受けながら、市や県警に通報しなかったとも指摘される。
市が問題を公表してからわずか4日後に、県警は強制捜査に踏み切った。園ぐるみで証拠隠滅や口裏合わせをする恐れがあると判断したとみられる。
市は5日、犯人隠避容疑で園長を刑事告発した。
一方、市側の対応も不適切だった。市は8月に園の報告を受けながら3カ月以上公表せず、市民や保護者から不満が出ていた。
市長は報告を怠ったとして、健康福祉部長ら3人を懲戒処分する方針を示した。なぜ公表を遅らせたのか。隠蔽する意図があったとしたら問題だ。検証を求めたい。
富山市の認定こども園でも虐待があり、富山県警は保育士2人を暴行容疑で書類送検する方針だ。
園児の体を引っ張るなどした疑いのほか、倉庫に閉じ込めたり、尻を棒で突いたりしていた。
2人は「指導のつもりだった」と説明していたという。
行き過ぎた行為はしつけでも指導でもない。虐待である。
なぜこうした行為が相次ぎ起こるのか。関係者はひとごとと捉えず、重く受け止めてもらいたい。
子どもの心の傷は数年後に影響が出るとの指摘もある。しっかりとした心のケアも必要だ。
