「県は地産地消を進めているけど、私たちは恋愛も地産地消じゃないといけないんだよね」。福島県の女子中学生の言葉だという。東京電力福島第1原発事故で県外から差別され恋愛の相手を探すのもおのずと県内で、という意味か。心の傷の深さにがくぜんとした
▼この言葉は「劇団風の子東北」(福島県喜多方市)が先ごろ新潟市西区で上演した「フクシマ発」のせりふだ。ラジオ番組で紹介された言葉という設定になっているが、一人芝居を演じる劇団代表の澤田修さんが実際に耳にしたものという。劇中に出てくる被害の逸話は、全て現実に起きたことだ
▼劇団自体も事故の被害者といえる。主に児童向け演劇を作ってきたが、子どもたちの避難で公演が減った。6人いた劇団員は離れ、澤田さんだけが残った。収入は月10万円ほどに半減した
▼苦境の中で「福島の現状を知ってもらいたい」と考え出したのが事実に基づく芝居だった。福島県では震災関連で年10人以上が自殺する。被ばく後遺症や甲状腺がん罹患(りかん)に不安を抱く子どもも少なくない。澤田さんは「人が人らしく生きる権利を奪われた」と訴える
▼今なお3万人近くが避難を続けている。大震災当日に国が出した「原子力緊急事態宣言」は11年たっても解除が見通せない。こうした現実を告発してきた「フクシマ発」の上演は新潟で106回目となった
▼福島では原子力災害が進行中だ。原発の運転延長や新設に前のめりな岸田政権は、どこか遠い国の政府なのだろうか。