車の販売店や電器店からカレンダーが届く。筒のように丸められ、ビニールに包まれて出番を待つ。その姿は師走ならではの一こまである
▼〈カレンダーの巻き癖強し応接間の隅に重ねて広辞苑載す〉。ある短歌雑誌に昨年投稿された1首だ。ビニールから取り出したばかりのカレンダーは、すぐにまた丸まってしまう。真っすぐにして壁にかけたいという、きちょうめんな人が作ったのだろうと感心した
▼それとともに、分厚い辞書にこんな使い道があったのかと驚いた。手元の広辞苑第七版をはかりに載せたら、2・4キロだった。これならば重しの役目を十分に果たせそうだ
▼紙の辞書は便利か不便かと問われれば、不便かもしれない。周囲を見回すと、パソコンで検索している人が多いようだ。しかし、である。目的の単語に行き着くため3千を超えるページを1枚ずつ、はがすようにめくる。すると、見知らぬ単語に出合うことがある。その楽しみは何物にも代えがたい
▼京都大学の川上浩司教授は「不便であるからこそ得られる益」を「不便益」と呼び、事例を集めている。川上さんによると、紙の辞書は不便だが「うれしいこと」がある。「目的の単語のページが一発で開いたら、なぜかうれしい」というのだ
▼いつでも、どこでも新型ウイルス感染の心配をしなければならない。食品やガソリンの値上げは財布に響いている。何かと不便な暮らしは、年をまたいで続きそうだ。せめて何げない日常の中に小さな益を見いだしたい。