テレビ特撮「ウルトラセブン」に惑星攻撃用の新兵器が登場する。宇宙からの侵略に対抗できると喜ぶウルトラ警備隊員と、主人公のモロボシ・ダンが口論になる
▼侵略者は新兵器に対抗し、さらに強力な兵器を開発すると訴えたダンに対し、隊員はそれを上回る兵器を作ればいいと反論する。ダンはつぶやく。「それは血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ」
▼ファンの間では有名なせりふである。これに今の国際情勢や安全保障を巡る動きを重ね合わせたくなる。近隣国のミサイル開発や覇権主義的な行動に対し、防衛力の増強を主張する声が強まっている
▼日本政府は、自衛目的で他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に踏み出す方針だ。防衛関連の予算も大幅増になる見通しになった。変化に対応することは必要だろう。とはいえ、防衛の名の下に軍拡がエスカレートする懸念は常につきまとう
▼反撃能力の保有は専守防衛を変質させ得るが、詳細な検討もないまま決めることには危うさも漂う。与党内はそうした議論を飛び越えて、さらなる防衛費をどうひねり出すかという論議ばかりがかまびすしかった
▼冒頭の「セブン」の場面が初めて放送されたのは1968年。世界は冷戦のただ中にあった。東西陣営は「悲しいマラソン」を演じたが、破局的な衝突だけは避けられた。世界は今再び血を吐きながら走ろうとしている。私たちは、どこかで踏みとどまることができるのだろうか。