今年の新語・流行語大賞で「知らんけど」がトップテン入りした。文末に付けて断定を避け、責任も回避する言い方とされる。関西弁の一つで、アイドルの楽曲に取り入れられ話題となった。すかさず「知らんのかい」と突っ込むと笑いが生まれるという
▼これを冷たい言葉と受け止める人も少なくないようだ。「それ変じゃない? 知らんけどさ」。こんなふうに突き放されると否定を駄目押しされた感じがする。「それ」が「あいつ」に換わると、さらに鋭利な表現に聞こえる
▼かつては褒め言葉だったはずの「真面目」も似た響きがある。「マジメ」と書くと分かりやすいか。物事に真摯(しんし)に取り組む人が失敗すると、しばしば「あいつ、マジメだから」と評される。同情かもしれないが、批判や嘲笑(ちょうしょう)のニュアンスが透けて見えることもある
▼エッセイストの勢古浩爾さんは著書で、真面目な人は「つまらない人間の代名詞」であり、この社会で評価されたためしがないと指摘した。時には邪魔者扱いされることさえある。しかし真面目で人に誠実であることは信頼の源であり、勢古さんはその生き方を肯定する
▼「知らんけど」にせよ「真面目」にせよ、そんなに目くじらを立てなくても、とも思う。ただ社会の分断が進む中、その言葉で自分が周囲と切り離されたと感じる人がいることも心に留めておきたい
▼ウイルス禍や物価高で心が寒々しい師走である。こんな時こそ人に優しく誠実でありたい。居心地のいい社会になると信じて。