〈喰ひ尽(つく)して更に焼いもの皮をかぢる〉正岡子規。寒い冬は湯気を立てる焼き芋が恋しくなる。子規は大食漢だった。病床録「仰臥(ぎょうが)漫録」には、体の自由が利かなくなってからも食事以外に菓子パンを10個食べたことなどが記されている
▼晩年、ロンドンに留学していた親友の夏目漱石に手紙を書き病気の苦しさを訴えた。さらに「倫敦(ロンドン)の焼き芋の味はどんなか聞きたい」と記したのは、いかにも子規らしい
▼音を鳴らして売り歩く、昔ながらの焼き芋屋さんは以前ほど見かけなくなった一方、芋は格段に甘くなった。「ホクホク系」に加え、しっとりした食感の「ねっとり系」もすっかりおなじみになった。新潟市西区では「いもジェンヌ(紅はるか)」、同市北区では滑らかな舌触りの「しるきーも(シルクスイート)」が特産だ
▼子規の手紙を受け取った漱石も大の甘党で羊羹(ようかん)やアイスクリームがお気に入りだった。ロンドンに焼き芋はなかったのだろう。ビスケットやジャムを食べていたという
▼店頭に「クリスマスケーキ予約承り中」の文字が目に付く時期だ。やはり値上げが目立つ。ロシアのウクライナ侵攻や円安のあおりで、原材料の牛乳や小麦粉、砂糖などの値が跳ね上がった
▼燃料代も高騰している。新潟の冬は厳しい。健康を損なわないためにも暖房は欠かせないけれど、財布には痛い。体も懐も寒くなるこの季節、せめて甘い物を囲んでひととき、心を温めるとするか。〈やきいもをふたつ割りにす諾(うん)と言ふ〉中原道夫。