クリスマスぐらい戦いをやめよう。第1次大戦中の1914年12月24日から25日にかけ、西部戦線の一部で停戦状態が生じた。塹壕(ざんごう)を挟み敵味方が「きよしこの夜」を歌ったという。映画のような実話だ
▼ロシアのウクライナ侵攻で戦争を直視せざるを得なくなった今年は魚沼市出身の歌人、宮柊二の生誕110年の年でもあった。中国での戦争体験を多くの歌にした。「鉄砲を撃つだけではない、戦場の日常も詠(うた)った」。柊二を師とした本紙読者文芸選者の高野公彦さんは言う
▼〈焼跡に溜れる水と帚草(ははきぐさ)そを囲(めぐ)りつつただよふ不安〉。荒涼とした景色から重苦しさが立ち上る。戦後の作だが、高野さんは「今のウクライナの風景、戦場を連想させる」と話す。現地は厳寒期。水たまりは凍っているのか
▼10代のころ友人が漏らした言葉を思い出す。「大人も平和がいいって言うのに、どうして戦争はなくならないの」。答えかねて「理想と現実は違うんじゃない?」と、ありふれたことしか言えなかった。もう少しましな答えはなかったか
▼街にはクリスマスソングが流れる。ジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」は〈クリスマスがやってきたね〉と歌いだし、こうも言う。〈世界はひどくまちがっているけれど〉。それでも最後は〈戦争は終わる/あなたが望めば〉と訴える
▼クリスマス休戦は「奇跡」と呼ばれるが、実際に起きたことである。みんなが望めば戦争が終わると信じたい。友人に言えたらよかった。