人間ドックを受けると再検査や精密検査が必要な項目が多くなった。運動すると体力の衰えは明らか。日々進歩するデジタル社会に付いていけない-。こんなふうに実感している中高年の方々もおられよう
▼職場で管理職など責任ある立場に就く人もいる。家庭でも仕事でも、何かと気苦労が絶えなくなる。身も心も、お疲れの世代といえるだろう
▼この人も年を重ね、少しお疲れだったのか。将棋の羽生善治九段である。若い頃はすごかった。1989年、当時としては最年少の19歳3カ月で初タイトルの竜王を獲得した。今の藤井聡太五冠のような勢いがあった
▼96年には全七冠を史上初めて同時に制覇。2017年の竜王戦では、これまた史上初の永世七冠を達成した。しかし翌年、48歳で27年ぶりの無冠になる。今年2月にはトップ棋士の証しであるA級からも陥落してしまった
▼長時間の対局には体力も必要だ。その部分では若い棋士に及ばないのか。さらに将棋界は人工知能(AI)を駆使した研究が進む。「これまでの経験や知識が生かしにくい」と語っていた。ハイテクにあたふたする中高年の姿が重なって見えた
▼そんな羽生さんが最近、盛り返してきた。AIによる研究も取り入れ、自分の将棋を見つめ直したようだ。王将戦挑戦者決定リーグ戦に全勝し、1月に藤井五冠に挑む。52歳と20歳の対決だ。藤井ファンには悪いが、年長者を応援したくなる。中高年に元気や希望を与える将棋を見せてほしい。まだまだやれる。