年末の押し迫ったタイミングで閣僚を交代させる理由がどこにあるのか。国会審議の停滞を招いてきた要因はひとえに岸田文雄首相の決断力の乏しさにある。任命責任を厳しく問わねばならない。

 首相は「政治とカネ」の問題や公選法違反疑惑などが相次いでいた秋葉賢也復興相について、27日に交代させる意向を固めた。事実上の更迭となる。

 岸田内閣の閣僚更迭は、10月以降で4人に上る。極めて異常な事態と言っていい。

 そのうち秋葉氏ら3人は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との接点がある閣僚を交代させた8月の内閣改造で初入閣した。

 国民は教団との関係だけでなく、政治とカネの問題にはそもそも不信を抱いている。それなのに首相はどこを見て起用したのか。

 秋葉氏は自身の政治団体が妻と母親に事務所賃料として計約1400万円を支払い、母親は確定申告をしていなかった。義理の兄が代表だった政治団体には600万円を寄付していた。

 「法にのっとり、適切に処理している」と明言したが、身内に政治資金を還流させたと受け取るのが一般的な感覚だ。

 問題が10月に発覚して以来、秋葉氏は釈明を重ねたものの、納得できる内容ではなかった。

 国会対応に追われ、被災地への出張が中止に追い込まれるなど、影響は復興行政にも及んだ。

 秋葉氏が政権にとどまれば、引き続き野党の追及にさらされ、予算案を審議する来年の通常国会が停滞することは目に見えている。

 通常国会前に交代させるのは、予算案を早期成立させ、求心力を回復させたい思惑からだろう。

 しかし、秋葉氏と同時期に事務所費問題を追及されていた寺田稔前総務相を更迭した11月下旬に交代させることもできた。首相の判断は遅きに失したのではないか。

 首相は杉田水脈(みお)総務政務官についても交代させると決めた。

 杉田氏は過去に、月刊誌でLGBTなどの性的少数者を「生産性がない」と表現したほか、ブログにアイヌ民族をやゆする内容の記述をし、野党に追及された。これらの点は謝罪し、撤回した。

 ほかにも性暴力被害を公表したジャーナリストの女性を中傷するツイッターの投稿に「いいね」を押したり、女性への暴力や性犯罪について「女性はいくらでもうそをつける」と発言したりした。

 それなのに首相は杉田氏をネット上の中傷やいじめ問題を所轄する総務省の要職に起用し、「職責を果たすだけの能力を持った人物だ」と擁護した。その認識はやはりおかしい。差別や人権問題をないがしろにしている。

 度重なる更迭劇も、年が明ければ国民が忘れると思っているなら大間違いだ。首相は政治不信を招いた人事を猛省すべきだ。