大雪に風にと荒天が続く。外出には厚手の上着が欠かせない。今はウールやダウンのコートが定番だが、かつて本県や東北では「角巻き」を使う女性も多かった。日常の風景を収めた写真集「思い出ほろろん」の佐渡編には、毛布のような角巻きをまとった女性たちが行き交う1枚がある
▼写真は1960年代初めに撮られた。その時分の話であろう。北朝鮮による拉致被害者で佐渡市の曽我ひとみさん(63)が先月、拉致問題の解決を訴える集会で幼い日の角巻きの思い出を語っていた
▼ひとみさんは保育園からの帰り道、雪の中を心細い思いで家へ向かった。そこに普段より早く仕事を終えた母ミヨシさんが迎えに来てくれた。うれしさに「寒い」と抱きつくと、母が角巻きの中に入れてくれたという
▼母と会えた安心感もあっただろう。ひとみさんは「本当に温かかった」と振り返る。その後の訴えが痛切だった。「今度は私が母を温かくしてあげたい。親孝行がしたい。しかし、時間がない」
▼曽我さん親子が一緒に拉致されてから44年がたった。北朝鮮が「未入国」とするミヨシさんは消息も分からないまま、きょう28日に91歳の誕生日を迎えた。冬の寒さを高齢の身でどうしのいでいるのか。待つ家族の焦燥は察するに余りある
▼新潟市での集会には内閣府副大臣も出席した。拉致問題が停滞していることをわびていたが、家族が求めているのは言葉ではない。解決への具体的な行動であり、その先にある愛(いと)しい人たちのぬくもりだ。