やせこけて青ざめ、悲しげだ。その小柄な老人は渋うちわを手にしている。およそこんなイメージだろうか。人々の暮らしをどんどん貧しく、苦しくさせる貧乏神である

▼この神様は昔話によく登場する。年末年始にどこかの家にとりついたり、福の神と入れ替わったり。貧乏神はどれほどたくさんいるのか-。この1年を思い返し、そう感じる方は多いだろう

▼ウイルス禍は収まらず、2月にはロシアがウクライナに侵攻した。重なる災禍は穀物や乳製品などの食料、エネルギーの暴騰を世界で招く。輸入品は値上がり続きで、スーパーは値札の書き換えを何回したことか。11月の消費者物価指数は15カ月連続で上昇し、前年同月比3・7%と40年ぶりの伸び率だった

▼インフレ退治のため欧米各国は政策金利を上げ続け、金融を引き締める。そんな中、先進国で日本だけが異次元という金融緩和を曲げなかった。単独での超低金利なら、大規模な円売りで円安を招く。それがさらなる値上げラッシュを呼び込む。まるで貧乏神がうちわをあおぐようだ

▼年の瀬に事態はまた動いた。日銀は長期金利の上限を引き上げ、事実上の利上げにかじを切った。一定程度は円高が進んだが、物価上昇に歯止めはかかるのか。住宅や車などのローン利率アップも気になる

▼それどころか1千兆円超の国の借金利払いが膨張しかねない。安易な増税でしのごうとすれば家計は一段と火の車になる。貧乏神を福の神に代える妙案は簡単に見つかりそうもない。

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